プエブラの会戦

1862年 5月5日、メキシコ中部の都市プエブラ近郊で、フランス軍とメキシコ軍の間で行われた歴史的な戦闘です。フランス皇帝ナポレオン3世が進めたメキシコ征服のための介入戦争（第二次メキシコ帝国成立戦争）において、数で劣るメキシコ軍が侵攻するフランス軍を撃退した、メキシコ史における重要な勝利となりました。この日付は現在、メキシコで「シンコ・デ・マヨ」として国民的な祝日となっています。

戦闘に至る背景

この衝突の発端は、フランス皇帝ナポレオン3世が新大陸におけるフランスの勢力圏確立を目指し、隣接するアメリカ合衆国に対抗するための「カトリック帝国」建設という野心にありました。一方、メキシコではレフォルマ戦争終結後の財政難に直面し、1861年7月17日、ベニート・フアレス大統領は議会を通じて、2年間の対外債務支払いの延期を決定しました。

これに対し、メキシコからの債権回収を目的として、債権国であるイギリス、スペイン、フランスの三国は、同年12月にメキシコへの共同出兵を決定しました。各国の軍隊はメキシコ湾岸の港湾都市ベラクルスに上陸し、税関管理による債務回収を図りました。しかし、フランスが債務回収だけでなく、メキシコ国内に領土的な野心を持っていることが明らかになると、共同歩調を取ることは不可能となり、1862年4月までにイギリスとスペインはメキシコから撤兵しました。結果として、フランスのみが単独でメキシコへの軍事介入を継続することになったのです。

当初、フランス軍はベラクルスを確保した後、外交交渉を通じて事態を収拾し、最終的にはメキシコから撤退する方向で調整が進んでいました。しかし、撤兵の途上、フランス軍は突如として協定を破棄し、メキシコ軍への攻撃を開始しました。これに対し、メキシコ軍はイグナシオ・サラゴサ将軍を司令官とし、ポルフィリオ・ディアス旅団長らの指揮のもと、祖国防衛のため迎撃態勢を敷きました。プエブラの戦いは、このように海岸沿いに展開していたフランス軍とメキシコ軍が、フランス側の協定破棄という形で偶発的に遭遇したことから発生したものです。

戦闘の経過

フランス軍を率いるシャルル・フェルディナン司令官の部隊が、海岸線から内陸部へ向かって規律に欠けた行軍を行っているのを偶然発見したメキシコ軍は、既に撤退したはずのフランス軍が協定を裏切ったことを知りました。フランス軍の不誠実な行動に激しく憤慨したメキシコ軍は、直ちに反撃を開始し、海岸沿いのオリサバに構築されていたフランス軍の堅固な陣地への先制攻撃を試みました。しかし、この攻撃はフランス軍の強固な防御を突破することができませんでした。

イグナシオ・サラゴサ将軍は賢明にも、無理な攻撃を避け、軍を一旦プエブラまで後退させました。そして、プエブラに存在する二つの砦（ロレーツ砦とグアダルーペ砦）を中心とした強固な防御陣地を構築しました。一方、フランス軍はメキシコ軍の能力を過小評価しており、プエブラへの攻撃を比較的容易に進められると考えていました。

1862年 5月5日、フェルディナン司令官は全軍をプエブラ市街北部から投入し、攻撃を開始しました。フランス軍はメキシコ軍に対して数的に優位であり、砲撃による支援も受けていましたが、メキシコ軍が二つの砦を中心に構築した防御線を突破できませんでした。フランス軍は二度にわたる攻撃を敢行しましたが、いずれも撃退されました。三度目の総攻撃では、フランス軍は予備戦力まで投入しましたが、既に砲撃用の弾薬はほとんど使い果たされている状態でした。この三度目の攻勢も、メキシコ軍が丘の上に築いた砦の陣地を崩すことはできず、遂にフランス軍はプエブラからの退却を余儀なくされました。

この機を逃さずと見たメキシコ軍は、退却を開始したフランス軍に対し追撃を開始しました。ポルフィリオ・ディアス率いる騎兵部隊がフランス軍の両翼から回り込み、敗走する敵軍を追い詰めます。午後3時頃から降り始めた雨の中、メキシコ騎兵に追われる形でフランス軍はオリサバへと敗走しました。この戦闘における損害は、フランス軍が762名の死傷者を出したのに対し、メキシコ軍はわずか233名の損害に留まりました。フランス軍はオリサバで防御戦を行うことを計画しましたが、メキシコ軍はプエブラの防衛体制維持に専念したため、追撃をそれ以上続けませんでした。結果として、数日後にはフランス軍はオリサバをも放棄し、メキシコ湾岸へと撤退していきました。

戦闘の意義とその後の展開

数の上で圧倒的に優位であったフランス正規軍に対し、メキシコの国民軍が勝利を収めたことは、世界各国に大きな驚きを与えました。この勝利は、メキシコ国民の士気を大いに高め、その後の抵抗運動の礎となりました。

しかし、メキシコ支配の野心を捨てきれなかったナポレオン3世は、この敗北にも屈せず、より大規模な援軍をメキシコに派遣しました。そして翌1863年には、遂にメキシコシティを陥落させることに成功しました。さらに1864年には、かつてメキシコの宗主国であったスペインの王家であるハプスブルク家出身のオーストリア大公マクシミリアンをメキシコ皇帝として擁立し、フランスの傀儡政権であるメキシコ帝国を成立させました。

プエブラの戦いでの勝利は、メキシコにとっては一時的なものではありましたが、その後の抵抗運動につながる重要な節目となりました。特に、この5月5日の勝利は、現在ではメキシコで最も重要な祝日の一つである「シンコ・デ・マヨ（Cinco de Mayo）」として称えられています。この祝日は、少数派が強大な力に立ち向かい、勝利を収めたことの象徴とされています。

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