プラクティス・スクワッド

プラクティス・スクワッド (Practice Squad)とは

プラクティス・スクワッド（PS）は、アメリカンフットボールリーグNFLにおいて、チームが選手の育成と戦力維持のために設けている特別な契約形態です。文字通り、チームの練習に参加することを主な目的とした選手たちで構成されます。

概要

NFLには、野球のMLBのような育成リーグが存在しません。そのため、プラクティス・スクワッドは、将来性のある選手を育成したり、怪我人の代替要員を確保したりする上で重要な役割を果たしています。PSの選手は、通常のロースターには登録されず、公式戦に出場するためにはロースターへの昇格が必要です。日本語では「練習生」と訳されることもありますが、ベテラン選手も在籍することができます。

歴史

PSの原型は、1944年にクリーブランド・ブラウンズで考案された「タクシー・スクワッド」に遡ります。当時のヘッドコーチ、ポール・ブラウンは、有能な選手を多数抱えていましたが、ロースターの人数制限がありました。そこで、オーナーのアーサー・マクブライドは、有望な選手を自身のタクシー会社に所属させ、練習には参加させつつ、ロースター外に置きました。これが「タクシー・スクワッド」として広まりましたが、当時はリーグ公認の制度ではありませんでした。

1965年に正式な制度として採用され、当初は人数制限がありませんでしたが、1968年に13人、1973年に7人と制限が設けられました。1974年にロースター枠が拡大されたことに伴い、「タクシー・スクワッド」制度は廃止されましたが、1990年に現在の「プラクティス・スクワッド」として復活しました。当初5名だった枠は、1993年に5名、2004年には8名に拡大されています。

登録資格

PSに登録できる選手には、一定の資格要件があります。重要な概念として「Accrued Season（AS、経過シーズン）」があり、これは選手がNFLのロースターに登録された状態で一定の試合数を経験した場合に付与されるものです（試合への出場は必須ではありません）。

2020年のNFL労使協定（CBA）では、基本的な条件として、ASを持たない選手、またはASを1年分持つが試合数が9試合未満の選手に登録資格が認められています。2014年には、PS枠が10名に拡大され、上記の条件を満たさない選手を最大2名まで登録できるようになりました。さらに2020年には、PS枠が16名に拡大され、条件を満たさない選手を最大6名まで登録できるようになりました。

2022年シーズンでは、ASを持たない選手、ASを1年分持つが試合数が9試合未満の選手を基本とし、ASが2年分以下の選手を最大10名、ASの条件を問わない選手を最大6名まで登録できるようになっています（ただし、ASが2年分以下の選手とASの条件を問わない選手の合計は10名を超えられません）。

在籍期間の上限

当初、PSに所属できるのは2シーズンまでとされていました。このシーズンは、PSに在籍した状態で3試合を経過したものと定義されていました。2006年からは、3シーズンまでのPS在籍が可能となりましたが、2020年のCBAではPS在籍可能年数の規定は削除されました。

インターナショナル・プレーヤー

アメリカ合衆国およびカナダ以外の国出身の選手は、インターナショナル・プレーヤーとして、16名の枠とは別に、1名に限りPSに登録することができます。PS在籍期間中、他のチームとの契約交渉は禁じられています。

待遇と給与

PSの選手は、原則として次戦の対戦チームを除くどのチームとも自由に契約することができます。ただし、新チームとの契約は正ロースター契約でなければならず、他チームのPSへ移籍することはできません。

給与に関しては、2020年のCBAにおいて、前述の登録資格によって固定給または給与範囲が定められています。2021年シーズンでは、条件を満たす選手の給与額は週給9,200ドルでした。

プラクティス・スクワッド出身の成功例

PSでキャリアをスタートさせ、その後NFLで目覚ましい活躍を見せた選手は少なくありません。以下はその代表的な例です。

ジェームズ・ハリソン：ファーストチームオールプロ4回、プロボウル選出5回
ジェイソン・ピータース：ファーストチームオールプロ2回、プロボウル選出9回
ジョン・クーン：ファーストチームオールプロ1回、プロボウル選出3回
エイドリアン・フィリップス：ファーストチームオールプロ1回、プロボウル選出1回
マーセル・リース：セカンドチームオールプロ1回、プロボウル選出4回
ロレンツォ・アレクサンダー：セカンドチームオールプロ1回、プロボウル選出2回
* アダム・シーレン：セカンドチームオールプロ1回、プロボウル選出2回

これらの選手たちは、PSでの努力と成長を経て、NFLのトッププレーヤーへと上り詰めました。プラクティス・スクワッドは、選手にとって貴重な育成の場であると同時に、チームにとっても将来の戦力を発掘する重要な機会となっているのです。

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