プルーフ貨幣

プルーフ貨幣とは

プルーフ貨幣とは、通常の流通を目的とした硬貨とは異なり、収集家向けに特別な処理を施して製造された硬貨のことです。その特徴は、鏡面のように磨き上げられた地肌と、図案部分のつや消し加工（フロステッド加工）によるコントラストにあります。これらの特別な加工により、プルーフ貨幣は通常の硬貨よりも美しく、より高い鑑賞価値を持ちます。

プルーフ貨幣の歴史

プルーフ貨幣の歴史は古く、17世紀にはイギリスで既に存在が確認されています。当初は、流通用の硬貨を製造する前の試鋳貨として作られていましたが、その美しさから収集家の間で人気が高まり、現在では収集を目的とした硬貨として広く認知されています。

日本では、明治時代にイギリス人技術者の指導の下で、鋳造機や刻印のテストのために試験的に製造されたのが、公式な最初の例とされています。その後、新しい硬貨が発行されるたびに試験的にプルーフ貨幣の製造も試みられましたが、本格的に製造が開始されたのは1987年（昭和62年）からです。

現在では、記念硬貨だけでなく、通常の貨幣にもプルーフ貨幣が製造されています。

プルーフ貨幣の種類

プルーフ貨幣には、主に以下の3つの種類があります。

1. フロステッドプルーフ
- 地肌が鏡面仕上げで、図案の盛り上がった部分がつや消し（梨地など）仕上げになっているタイプです。日本のプルーフ貨幣は、ほとんどがこのタイプです。英語では「frosted」や「cameo」とも呼ばれます。

2. ブリリアントプルーフ
- 硬貨全体がツルツルと光沢のある仕上げになっているタイプです。アメリカ合衆国や中南米のプルーフコインによく見られます。

3. マットプルーフ
- 硬貨全体がつや消し（マット）仕上げになっているタイプです。イギリスのエドワード7世戴冠記念コインセット（1902年）などが代表例として挙げられます。

プルーフ貨幣の製造工程

プルーフ貨幣の製造は、通常の硬貨と同様に、極印（金型）を用いて円形（円板）に模様を転写する圧印という工程で行われます。

しかし、プルーフ貨幣の場合は、専用に磨き上げられた極印と、鏡面研磨された円形が使用されます。また、通常の硬貨は1回の圧印で製造されますが、プルーフ貨幣の場合は、鏡面と掘り込みを綺麗に転写するために、2回以上の連続圧印が行われます。

これは、1回の圧印だけでは、極印の掘り込みの底面と円形の間に圧縮された空気溜まりが生じ、意図しない光沢が発生して、図案のディテールの転写を妨げるためです。極印を少しだけ上昇させて型を開放し、再度圧印することで、精細なディテールが転写されます。

さらに、圧印に使用するプレス機も、近年では油圧プレス機が主流となっています。油圧プレス機は、型開き時の隙間を最小限に制御でき、圧印時の圧力制御も可能なため、より高品質なプルーフ貨幣の製造に貢献しています。

連続圧印の際、極印と円形の間に空気中のゴミが紛れ込むと、硬貨の表面に傷として転写される恐れがあるため、プレス機はクリーンルーム内に設置されます。圧印後も、目視検査を併用して傷や曇り、光沢の有無などをチェックし、不良品を除去する工程があります。

このように、プルーフ貨幣は、厳しい品質管理の下、非常に手間のかかる作業を経て製造されています。

現在の日本のプルーフ硬貨は、刻印後に錆や曇りが生じないよう、特殊な樹脂の防錆剤が塗布されています。

準プルーフ貨幣

以前は、プルーフ貨幣の製造に使用した磨き上げられた極印を、通常の流通硬貨の製造にも使用していたため、通常の硬貨の中にも、鏡面に近い状態のものが稀に見られました。このような硬貨を「準プルーフ貨幣（prooflike coin）」と呼びます。

しかし、現在では通常の硬貨とプルーフ貨幣の製造には異なるプレス機を使用しているため、プルーフ貨幣の極印を通常の硬貨のプレス機に流用することはなくなりました。近年の流通硬貨は、状態が良好であればある程度の鏡面状に仕上がりますが、圧印前の円形の処理が異なるため、準プルーフ貨幣と呼べるほどの滑らかな鏡面光沢を呈するものはほとんどありません。

ただし、図案の異なる記念硬貨を受け付けないイメージセンシング機能を持つ最新の自動販売機などでは、プルーフ貨幣や準プルーフ貨幣を認識することがあります。

明治時代の金銀貨（3年銘～13年銘）には、明らかなプルーフ貨幣が存在しますが、硬貨の片面だけがプルーフ状であったり、一部がプルーフ状になっているものも多く見られます。この時代のプルーフ貨幣と準プルーフ貨幣を見分けるには、ミントラスター（製造時に生じる光沢）の有無が決め手となります。

プルーフ貨幣の価値

現在、多くの国で、通常の硬貨とプルーフ貨幣の両方が製造されています。日本では、通常の貨幣のほか、地方自治60周年記念の500円硬貨などにも、通常タイプとプルーフタイプが存在します。

基本的に、通常タイプは流通を目的としていますが、プルーフタイプは収集対象として製造されています。ただし、フランクリンミント社が圧印した中南米貨幣のように、ほとんどがプルーフタイプで、通常タイプの圧印数が極めて少ない例もあります。

収集対象として製造されているプルーフ貨幣は、取引の際に非常に慎重に扱われます。特に現行貨幣の場合は骨董的な価値が付かないため、貨幣セットのケースから取り出す際の不注意などでほんの僅かな傷が付いただけでも、額面通りの価値として査定されることが一般的です。

まとめ

プルーフ貨幣は、その美しい仕上がりと希少性から、多くの収集家に愛されています。製造には高度な技術と手間がかかっており、通常の硬貨とは異なる魅力を放っています。コレクションに加える際には、その価値を損なわないよう、丁寧に取り扱うことが大切です。

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