プレシジョニズム

プレシジョニズム（Precisionism）とは

プレシジョニズム、または精密派とは、1920年代から1930年代にかけてアメリカで隆盛した絵画の様式を指します。キュビスム的リアリズム（Cubo-Realism）、イマキュラティズム（Immaculatism）とも呼ばれることがあります。この美術運動は、アメリカ独自のアイデンティティを模索し、ヨーロッパからの影響を脱却しようとする動きの中で生まれました。

特徴

プレシジョニズムの画家たちは、人工的な風景、特に都市の風景や建築物（工場、倉庫、摩天楼など）、そして機械を主な題材としました。これらの対象をキュビスムの影響を受けつつも、写実的な筆致で描くことを特徴としています。彼らは、対象を単純化し、幾何学的な形態に分解することで、精密さと同時に抽象性をも表現しました。この特徴は、後のスーパーリアリズムへと繋がる重要な要素となりました。

特にチャールズ・シーラーは、写真作品も制作し、自らが撮影した写真を基に絵画を制作することがありました。これは、プレシジョニズムが、グループf/64|グループf_64の一部に見られるようなストレートフォトグラフィ、特に人工的な風景を対象としたものと密接な関係にあることを示しています。正確で客観的な描写を追求する姿勢は、写真と絵画の境界線を曖昧にする試みでもありました。

歴史

プレシジョニズムは、アメリカにおける近代的な「イズム」の中でも早い時期に成立したものの1つです。しかし、特定のグループ名ではないため、その始まりと終わりについては諸説あります。1910年代の1915年や1918年を始まりとする説や、1930年には終わっていたとする説がある一方で、1941年頃まで続いたとする見方もあります。

この運動は、アメリカが工業化と都市化を急速に進めていた時代背景と深く結びついています。画家たちは、都市の構造物や機械の美しさに着目し、それらを独自の視点で捉え、精密かつクールな表現でキャンバスに描き出しました。彼らの作品は、アメリカ社会の変化と、それに対する芸術的な応答を記録したものとして、現代においても高く評価されています。

主な画家

プレシジョニズムを代表する画家には、以下の人物が挙げられます。

チャールズ・シーラー（Charles Sheeler; 1883年-1965年）：写真と絵画の両方で活躍し、精密な描写を追求しました。
ジョージ・オールト（George Ault; 1891年-1948年）：夜の都市風景や静寂な工場を描きました。
ナイルズ・スペンサー（Niles Spencer; 1893年-1952年）：都市の建築物や産業風景を幾何学的に捉えました。
ジョージア・オキーフ（Georgia O'Keeffe; 1887年-1986年）：花や骨などの自然物を、抽象的な形と精密な描写で表現しました。
モートン・シャンバーグ（Morton Livingston Schamberg; 1881年-1918年）：機械や都市風景を、幾何学的かつ写実的に描きました。
ジョセフ・ステラ（Joseph Stella = Giuseppe Michele Stella; 1877年-1946年 or 1880年-1946年）：工業的なテーマや都市のダイナミズムを表現しました。
チャールズ・デムス（Charles Demuth; 1883年-1935年）：工業的な風景や建築物を、幾何学的な構成と鮮やかな色彩で描きました。
ラルストン・クローフォード（Ralston Crawford; 1906年-1978年）：工業施設や都市の構造物を、シンプルかつ洗練されたスタイルで描きました。

これらの画家たちは、それぞれの個性的なスタイルを持ちながらも、プレシジョニズムという共通の枠組みの中で、アメリカの工業化時代を象徴する風景を描き出しました。

プレシジョニズムの影響

プレシジョニズムは、後の美術運動、特にスーパーリアリズムに大きな影響を与えました。対象を客観的かつ精密に描く手法は、現代美術においても重要な要素となっています。

プレシジョニズムの作品は、美術館やギャラリーで展示されるだけでなく、美術史の教科書やオンラインのデータベースでも広く紹介されています。この運動は、アメリカ美術史において重要な位置を占めており、その影響は現代にも続いています。

まとめ

プレシジョニズムは、アメリカ独自の美術運動として、工業化時代の風景を精密に捉えた貴重な遺産です。その特徴的な表現は、現代美術の発展にも大きな影響を与えており、美術史において重要な役割を果たしています。

参考文献

西洋美術史
20世紀美術
* ニューヨーク近代美術館

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