プロコン-テン

プロコンテン：アウディが採用した独自の安全システム

アウディは、1986年から1990年代半ばにかけて、独自の安全装置「プロコンテン (procon-ten)」を採用していました。Programmed Contraction Tensionの略称であるプロコンテンは、前面衝突時の乗員保護を目的としたシステムです。

プロコンテンの仕組み

プロコンテンは、エンジンの後部に接続された金属ケーブルを利用した巧妙な機構を持っていました。前面衝突が発生すると、エンジンが後退し、このケーブルが引っ張られます。この動作によって、ステアリングコラム全体がダッシュボード側に引き込まれるのです。同時に、シートベルトが巻き上げられることで、乗員がステアリングに激突することを防ぐ仕組みでした。

アウディ車のエンジンは、一部の例外を除き、伝統的に縦置き配置でした。この配置により、エンジンが衝撃を吸収する役割を果たし、プロコンテンの効果を最大限に発揮できる構造となっていました。ラジエーターは、エンジンの縦置き配置によって横にずらして設置されていました。

プロコンテンは、アウディ100／200、V8、80、90といったモデルに順次搭載されました。これらの車種は、プロコンテンによる安全性能の向上を謳っていました。

プロコンテン廃止の理由

しかし、1994年に登場した初代A4とA8、そして1997年に登場した2代目A6には、プロコンテンは搭載されませんでした。後継車種には、代わりにエアバッグシステムが採用されています。

プロコンテンが廃止された主な理由は、北米市場におけるエアバッグ装着義務化と、プロコンテンの修理費用にあります。軽微な事故でもプロコンテンが作動すると、高額な修理費用が必要となり、場合によっては車両の廃車処分を余儀なくされるケースもあったと推測されます。経済的な負担を考慮すると、エアバッグの方が現実的な選択肢だったと言えるでしょう。

この結果、アウディはドイツの自動車メーカーの中で、最後にエアバッグを採用したメーカーとなりました。これは、プロコンテンという独自の技術へのこだわりと、時代に合わせて安全技術を見直す必要性の両面を反映していると言えるでしょう。

プロコンテンとエアバッグ：安全技術の変遷

プロコンテンは、その時代の技術水準において革新的な安全装置でした。しかし、エアバッグの普及と、それに伴う安全基準の変化、経済的な要因などによって、時代遅れとなり、廃止されました。

このプロコンテンの採用と廃止は、自動車の安全技術がどのように進化し、社会情勢や経済状況に影響を受けて変化していくかを示す良い例と言えるでしょう。プロコンテンは、アウディの歴史において、独自の安全技術への挑戦と、時代への対応の両面を示す重要な事例となっています。アウディAGの商標登録でもあるプロコンテンは、自動車史における興味深い技術の一つとして記憶されています。

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