ヘラクレスとオンファレ (クラナッハ)

[ルーカス・クラナッハ]作「ヘラクレスとオンファレ」について

[ルーカス・クラナッハ]が1537年に描いた油彩画『ヘラクレスとオンファレ』は、ギリシア神話の英雄ヘラクレスとリュディアの女王オンファレを題材にした作品です。ブナ板に描かれたこの絵画は、画家の署名である翼のあるヘビの紋章と「1537」という年記が画面上部中央に記されています。クラナッハは、この神話の主題を繰り返し描いていますが、本作は特に描写の入念さと色彩の豊かさで際立っています。現在は、トゥールーズのバンベール財団に所蔵されています。

作品の主題と表現

この作品では、英雄ヘラクレスが女王オンファレの宮廷で3年間仕えたという物語を背景に、ヘラクレスが侍女たちに囲まれて女性用の頭巾を被せられ、糸巻き棒を渡される場面が描かれています。クラナッハは1529年以降、この主題を様々に変化させながら繰り返し描きましたが、いずれの作品でも、ヘラクレスは侍女たちの魅力に抗えず、彼女たちのなすがままになっている様子が描かれています。

この作品には、「女の力」に対する道徳的な警告が込められています。画面上部に記されたラテン語の詩と、絵画自体の表現を通して、二重にその警告が示されています。ヘラクレスの情けない姿に加え、画面右端の女性が鑑賞者に誘惑的な視線を送っている点も、この警告を強調しています。さらに、画面左上に吊るされたヤマウズラは、肉欲の結果として訪れるヘラクレスの運命を象徴していると考えられています。このモチーフは、クラナッハが描く同主題の作品によく見られます。

また、暗色を基調とした横長の画面形式は、北イタリア、特にヴェネツィア派の絵画からの影響を受けていると考えられています。この形式は、クラナッハが不貞を働く女性を描く際に頻繁に用いたものでもあります。

宗教改革と作品の解釈

宗教改革者マルティン・ルターは、クラナッハが描いた『ヘラクレスとオンファレ』の作品を目にした可能性があります。ルターは、1533年にヨハン・フリードリヒ寛大公がザクセン選帝侯に就任した際、ヨハンへの説教でヘラクレスの常軌を逸した振る舞いを引き合いに出し、新たな君主への戒めとしました。このことから、当時の人々がこの作品をどのように解釈していたかを垣間見ることができます。

作品の制作と特徴

この作品の仕上げには、クラナッハの息子、[ルーカス・クラナッハ]も関わったと考えられています。陶磁器のような滑らかな肌の質感や光沢感のある描写は、彼の絵画に特徴的なものです。親子二代にわたって制作された可能性がある点も、この作品の魅力の一つです。

まとめ

『ヘラクレスとオンファレ』は、クラナッハの卓越した画力と、当時の社会や宗教観を反映した、非常に興味深い作品です。ギリシア神話を題材にしながらも、女性の力や道徳的警告を内包し、独特な解釈が加えられています。ルネサンス美術の傑作として、その価値は今もなお高く評価されています。

参考資料

『クラーナハ展500年後の誘惑』、国立西洋美術館、ウィーン美術史美術館、TBS、朝日新聞社、2016年刊行　ISBN 978-4-906908-18-9
Cranach Digital Archiveサイト、ルーカス・クラナッハ『ヘラクレスとオンファレ』 (英語)

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