ヘルベルトス・ツクルス

ヘルベルト・ツクルス（1900年-1965年）は、ラトビアの英雄と悪名高き戦争犯罪者の両方の顔を持つ、複雑な人物です。彼は、ロシア帝国時代のリエパヤで生まれ、空軍パイロットとして華々しいキャリアをスタートさせました。アフリカへの飛行や、1936年から1937年にかけて行われたヨーロッパ-日本間の単独飛行など、数々の功績により国民的英雄として称賛されました。日本人パイロットとの航空ショーへの参加も記録されています。

しかし、1941年のドイツによるラトビア占領後、ツクルスの運命は暗転します。彼はアラーイス・コマンドに参加し、リガ近郊のルンブラの森で発生したユダヤ人虐殺に加担したとされています。このルンブラの虐殺では、およそ2万5000人のユダヤ人が命を落としました。ツクルスは、この虐殺における残虐行為で「リガの処刑人」と呼ばれ、ゲーム感覚でユダヤ人を殺害し、逃げる者には「殺されたくなければ走って逃げろ」と嘯いたと伝えられています。

彼の虐殺への関与については、歴史家の間でも意見が分かれています。アンドリュー・エゼルガイリスのような歴史家は、ツクルスの直接的な関与を否定する一方、多くの証言や記録は彼の関与を示唆しています。このため、ツクルスの歴史的評価は、現在もなお議論の的となっています。

戦後、ソビエト連邦の支配を逃れるため、ツクルスはブラジルに逃亡し、サンパウロで旅行業を営んでいました。しかし、1965年、イスラエル諜報特務庁（モサド）によってウルグアイのモンテビデオで暗殺されました。モサドは1985年にこの事実を公式に認めました。

バルト三国が独立を果たした後、ラトビア国内ではツクルスの歴史的評価をめぐる議論が再燃しました。彼を英雄視する動きと、戦争犯罪者として糾弾する動きが対立し、社会的な分裂を招いています。2004年には、ツクルスを主題とした記念切手が発行されるという出来事が発生し、ラトビア外務大臣アーティス・パブリクスから強い批判が向けられました。この事件は、ツクルスをめぐる複雑な歴史的遺産と、その社会に与える影響の大きさを改めて浮き彫りにしました。

ツクルスの生涯は、英雄と戦争犯罪者という対照的な側面を併せ持ち、その評価は現在もなお議論の的となっています。彼の複雑な歴史的遺産は、ラトビアの歴史、そしてホロコーストという暗い歴史の記憶を理解する上で、重要な課題を提示し続けています。彼の行動とその後の人生は、戦争と平和、正義と復讐、そして歴史の解釈の難しさについて、多くの示唆を与えてくれるでしょう。

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