ヘルメスベルガー四重奏団

ヘルメスベルガー四重奏団

ヘルメスベルガー四重奏団は、1849年にオーストリアの首都ウィーンで産声を上げた、歴史ある弦楽四重奏団です。この楽団は、ヴァイオリニストで指揮者でもあったヨーゼフ・ヘルメスベルガー1世（Josef Hellmesberger Sr.）によって創設されました。特筆すべきは、特定の演奏家やリーダーの名前を冠した最初の弦楽四重奏団の一つであるとされている点です。これは、その後の室内楽演奏の形態に大きな影響を与えたと考えられています。

結成とその歩み

ヘルメスベルガー四重奏団の直接的な前身は、ヴァイオリニストのレオポルト・ヤンサが1845年に組織した弦楽四重奏団にさかのぼります。1849年、ヤンサの後を継ぐ形でヨーゼフ・ヘルメスベルガー1世がリーダーとなり、従来のメンバーの多くが留まる形でこの新たな四重奏団が誕生しました。創設当時のメンバー編成は以下の通りでした。

第1ヴァイオリン: ヨーゼフ・ヘルメスベルガー1世
第2ヴァイオリン: カール・ハイスラー
ヴィオラ: マティアス・ドゥルスト
チェロ: カール・シュレジンガー

この初期のメンバーによる構成は、1860年代半ばまで異例なほど安定していたことが知られています。しかし、その後、メンバーの変遷が見られるようになります。ある時期には、以下のような顔ぶれで演奏が行われました。

第1ヴァイオリン: ヨーゼフ・ヘルメスベルガー1世
第2ヴァイオリン: アドルフ・ブロツキー（1870年にウィーンを離れました）
ヴィオラ: ジギスムント・バハリヒ
チェロ: ダーヴィト・ポッパー（1868年から1870年まで在籍しました）

ヘルメスベルガー1世の息子たちも、やがてこの四重奏団の活動に加わります。ヨーゼフ・ヘルメスベルガー2世（Josef Hellmesberger Jr.）は1870年に第2ヴァイオリン奏者として入団し、1887年には楽団長を引き継ぎました。また、2世の弟にあたるフェルディナント・ヘルメスベルガー（Ferdinand Hellmesberger）も1883年にチェロ奏者として楽団の一員となりました。

音楽界への影響と活動

ヘルメスベルガー四重奏団は、ウィーンの音楽界において極めて重要な役割を担いました。彼らは、ベートーヴェン、シューベルト、ブラームスといった作曲家たちの弦楽四重奏曲を精力的に演奏し、これらの傑作の普及に大きく貢献しました。特にシューベルトやブラームスの作品に関しては、数々の重要な初演を手がけたことでも知られています。

また、この四重奏団のために特別に作曲された作品も存在します。例えば、チェコの作曲家アントニーン・ドヴォルザークによる弦楽四重奏曲第11番 変ホ長調 作品61は、1881年にヘルメスベルガー四重奏団からの委嘱を受けて書かれた作品です。

彼らの活動の始まりを告げるデビューコンサートは、1849年11月4日に開催されました。その記念すべきプログラムには、古典派の巨匠フランツ・ヨーゼフ・ハイドンによる弦楽四重奏曲第77番 ハ長調 Op. 76-3 《皇帝》、ロマン派初期の作曲家ルイ・シュポーアによるピアノ三重奏曲第5番 イ短調 作品124、そしてルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンによる弦楽四重奏曲第7番 ヘ長調 作品59-1 《ラズモフスキー第1番》が並びました。この選曲からも、彼らが古典からロマン派へと続く幅広いレパートリーを志向していたことがうかがえます。

ヘルメスベルガー四重奏団は、その長年にわたる活動と質の高い演奏を通じて、ウィーンにおける室内楽文化の発展に計り知れない功績を残しました。ヘルメスベルガー家を中心とした緊密な連携と、卓越した演奏技術を持つメンバーたちの貢献により、この楽団は19世紀後半のヨーロッパ音楽史において、確固たる地位を築いたのです。

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