ヘンリー・ダーガー

ヘンリー・ダーガー：非現実の王国を創造した孤独な清掃員

ヘンリー・ダーガー（1892年4月12日-1973年4月13日）は、アメリカ合衆国の作家にして画家、そして清掃員でした。生前はほとんど知られていませんでしたが、死後に発見された膨大な創作活動は、アウトサイダーアートの世界で彼を伝説的な存在へと押し上げました。

孤独な創作活動

シカゴで清掃員として働いていたダーガーは、誰にも知られることなく、60年以上にわたり創作活動を続けました。その成果は驚異的です。1万5千ページを超えるタイプライター原稿と、数百枚に及ぶ挿絵からなる物語『非現実の王国で』は、彼の想像力の豊かさと、並外れた粘り強さを物語っています。この作品は、子どもたちの冒険や戦争、ファンタジーの世界が複雑に絡み合った壮大な物語です。

ダーガーの幼少期は不幸なものでした。4歳の時に母親を亡くし、孤児院で育ちました。その後も、精神病院や様々な施設を転々とするなど、困難な生活を送りました。しかし、こうした経験は彼の創作活動に影響を与えたと考えられています。彼の作品は、彼自身の経験や心の奥底に潜む感情を反映していると言えるでしょう。

出世作『非現実の王国で』

『非現実の王国で』は、15年間にわたって作成された1万5145ページもの大作です。15冊の原稿は、数百枚のイラスト、雑誌や塗り絵から切り取った画像などをコラージュした水彩画が挟み込まれており、幅30フィートにも及ぶ巨大なパノラマ作品も含まれています。この作品は、ダーガーが創造した「非現実の王国」という独特の世界を描いており、その細部に至るまでの緻密さ、そしてスケールの大きさは、見る者を圧倒します。

死後の評価

ダーガーの死後、大家によって彼の部屋から発見された『非現実の王国で』は、当初ゴミとして処理されそうになりましたが、大家のネイサン・ラーナーの慧眼によって救われ、世に知られることになりました。彼の作品は、アウトサイダーアートの代表作として高く評価され、世界中の美術館に収蔵されています。アメリカン・フォークアート美術館には「ヘンリー・ダーガー・スタディー・センター」も開設され、彼の作品に関する研究が本格的に行われています。

ダーガーの作品：世界観と創作方法

ダーガーの創作活動は、彼の心の内面を反映したものでした。彼は、雑誌やカタログから切り取った画像をトレースし、自身の絵と組み合わせることで、独特な世界観を構築しました。その世界は、彼の想像力によって生み出された、美しくも奇妙な世界です。彼は、幼少期の経験や、彼が愛読していた児童文学からインスピレーションを受けていたと考えられています。

ダーガーのもう一つの作品、「クレイジーハウス：シカゴでのさらなる冒険」も注目に値します。こちらは手書きの1万ページを超える大作で、『非現実の王国で』の登場人物がシカゴを舞台に活躍する物語です。また、彼は自伝も残しており、自身の生い立ちや心の葛藤を赤裸々に綴っています。

ダーガーの孤独と信仰

ダーガーは、孤独な生涯を送りました。彼は人付き合いが苦手で、ほとんど自宅アパートに引きこもっていました。しかし、彼は熱心なカトリック信者であり、教会のミサには欠かさず参加していました。彼の部屋からは、聖書や祈祷書、宗教画など、多くの宗教関連の品々が見つかりました。

ダーガーが残したもの

ダーガーは、清掃員として生きた、ほとんど無名の男でした。しかし、彼の残した作品は、彼の内面世界を鮮やかに描き出し、現代社会に大きな衝撃を与えました。彼の作品は、アウトサイダーアートという枠を超え、現代アートの新たな可能性を提示していると言えます。彼の生涯と作品は、孤独と創造性、そして人間の可能性について、深く考えさせるものです。

参考文献

ジョン・M. マグレガー（John M. MacGregor）　『ヘンリー・ダーガー 非現実の王国で』　作品社
小出由紀子編著『ヘンリ‐・ダーガー　非現実を生きる』平凡社
* その他、本文中に記載されている参考文献

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