ベオルトリッチ (ウェセックス王)

ベオルトリッチ（古英語: BEORHTRIC VVESTSEAXNA CYNING、ラテン語: BEORHTRIC REX SAXONVM OCCIDENTALIVM）は、8世紀末から9世紀初頭にかけて七王国時代のウェセックス王国を統治した王です（在位：786年 - 802年）。彼の名前は、日本語ではベオルフトリクとも表記されることがあります。彼の生年は定かではありませんが、没年は802年とされています。

生涯

ベオルトリッチの即位については、古代の記録であるアングロサクソン年代記の786年の記述にその詳細が見られます。年代記によれば、先代のウェセックス王キュネウルフが暗殺された後、彼が王位を継承しました。この時代のウェセックスは、当時イングランド南部で最も力を持っていたマーシア王国、特にその強力な王オッファの強い影響下にありました。

ベオルトリッチの治世は、このマーシア王オッファとの関係が重要な特徴となります。アングロサクソン年代記の787年の項目には、ベオルトリッチがオッファの娘であるエアドブルフを妃として迎えたことが記されています。この婚姻は、ベオルトリッチがオッファの宗主権を認め、マーシアとの同盟を強化しようとした意図があったことを示唆しています。当時のウェセックス王は、マーシア王への臣従を余儀なくされていた状況がうかがえます。

また、年代記の836年の項目には、後にウェセックス王となり、イングランドを統一する礎を築くことになるエグバートについて言及されています。この記述によれば、エグバートはベオルトリッチが王位にあった時期に、ベオルトリッチ自身とマーシア王オッファによってフランク王国へ追放されていました。これは、エグバートが当時のウェセックス王位継承権を持つ有力者であり、ベオルトリッチとオッファが連携して彼を排除したことを示唆しており、ここからもオッファによるウェセックスへの強い干渉が見て取れます。

ベオルトリッチの在位期間は、イングランド史における新たな脅威の出現とも重なります。アングロサクソン年代記は、ベオルトリッチがオッファの娘エアドブルフと結婚した年と同じ、787年より、北方からのデーン人（ヴァイキング）による襲撃が始まったことを記しています。これは、後のイングランドを悩ませることになるヴァイキング時代の幕開けを示す出来事であり、ベオルトリッチはウェセックス王として最初にこの脅威に直面した人物の一人となります。

彼は802年にその生涯を終えました。彼の死去に伴い、かつて彼とオッファによってフランク王国へ追放されていたエグバートが帰国し、ウェセックスの王位を継承しました。エグバートは、その後のウェセックス王国の勢力を大きく拡大させ、イングランドの多くの地域を統合していくことになります。ベオルトリッチの治世は、ウェセックスがマーシアの影に隠れ、新たな外敵の脅威に直面する一方で、将来の統一王を追放するという重要な出来事があった、激動の時代のただ中に位置づけられます。

ベオルトリッチに関する主要な情報は、同時代の信頼できる史料であるアングロサクソン年代記から得られています。

参考文献として、『ベーダー英国民教会史』（高橋博 訳、講談社学術文庫、2008年）など、当時のイングランド史を扱う文献が参照されます。

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