ベストメンバー規定

ベストメンバー規定：JリーグとVリーグにおける最強布陣の義務と課題

日本プロサッカーリーグ（Jリーグ）とVリーグにおいて、常に「最強のチーム」で試合に臨むことを義務付ける規定が、通称「ベストメンバー規定」として知られています。本稿では、この規定の経緯、批判、具体的な事例、そしてVリーグにおける状況について詳述します。

Jリーグにおけるベストメンバー規定

Jリーグ規約には、各クラブがベストメンバーで公式戦に臨むべきという規定が存在します。しかし、発足当初は「ベストメンバー」の定義や違反時の罰則はなく、曖昧な状態でした。

転機となったのは2000年、アビスパ福岡の監督がカップ戦で控えメンバーを多く起用すると発言、実際に試合に臨んだ出来事です。Jリーグはこの行為をカップ戦の権威を損なうものとして強く批判。これをきっかけに、2012年まで「直近5試合の先発出場選手を6人以上」という基準と、罰金、勝ち点剥奪、リーグカップ出場権剥奪などの罰則を盛り込んだ補足基準が制定されました。

当初はJリーグ主催の試合のみに適用されていましたが、天皇杯でのメンバー入れ替えが相次いだことから、2009年からは天皇杯にも適用されるようになりました。ただし、天皇杯では罰則規定はありませんでした。

AFCチャンピオンズリーグ出場チームや日本代表選手を多く輩出したチームは、規定が緩和される措置も取られていました。

批判と課題

ベストメンバー規定は、八百長防止やファンの満足度向上などを目的としていますが、多くの批判を受けています。主な批判点は以下の通りです。

選手の疲労やターンオーバーへの考慮不足: 負傷者への例外規定はあるものの、疲労蓄積や戦術的な選手交代（ターンオーバー）は考慮されていません。欧州リーグなどでは一般的なターンオーバーを、Jリーグでは制限している点は、世界的に見ても特異です。
若手選手の育成阻害: Jリーグは若手育成を掲げている一方、ベストメンバー規定が若手起用の障壁となっています。若手起用を促進しつつ、ベストメンバー規定を維持するJリーグの姿勢には矛盾があります。
クラブの自主性を阻害する越権行為: ベストメンバーの選定は監督・スタッフの権限であり、リーグがそれを規定することは越権行為だと批判されています。
過密日程の問題: 出場選手固定を強いる一方、Jリーグの日程は過密化しており、日程改革を優先すべきとの指摘があります。
規約の曖昧性: 天皇杯への適用や「直近5試合」の定義など、規約自体に曖昧な点が多く、解釈ミスによるトラブルも発生しています。
罰則の不徹底: 天皇杯では罰則がなく、有名無実化している点も批判されています。

具体的な事例

ベストメンバー規定に関連する具体的な事例をいくつか紹介します。

2007年川崎フロンターレ: ACLとリーグ戦の過密日程の中、選手交代を行い敗戦。規定違反ではなかったものの、Jリーグ専務理事が「サポーターに対する裏切り」と批判したことが波紋を呼びました。
2008年大分トリニータ: 天皇杯でメンバーを入れ替え敗戦。天皇杯は規定適用外でしたが、協会会長の強い批判を受けました。この事例がきっかけで、2009年から天皇杯にも規定が適用されるようになりました。
2009年サンフレッチェ広島: 若手起用の目的でメンバーを入れ替え、規定違反として制裁金が科されました。この事例は、ベストメンバー規定違反による初の罰則適用事例となりました。規約解釈の曖昧さが問題となった事例でもあります。
2012年ヴィッセル神戸: メンバーを入れ替え勝利しましたが、規定違反と判断され、制裁金とけん責が科されました。

制裁基準の撤廃

2018年、Jリーグはクラブの強化方針拡大と若手育成を理由に、ベストメンバー規定の補足基準（罰則規定）を撤廃しました。規定自体は残っていますが、違反しても罰則は科されなくなりました。

海外事例

イングランド・プレミアリーグにも同様の規定があり、違反クラブに罰金処分が下された事例があります。しかし、処分基準の曖昧さが批判されています。

Vリーグにおけるベストメンバー規定

Vリーグにもベストメンバーで試合に臨むべきという規定があります。2012年にはサントリーサンバーズが、最終戦でレギュラーメンバー、翌戦で控えメンバーで試合を行い、Vリーグ機構から制裁を受けました。これはVリーグ発足以来初めての事例でした。

まとめ

ベストメンバー規定は、その目的と現実の運用との間に大きな乖離が生じていることが明らかです。選手起用におけるクラブの裁量、若手育成、過密日程、規約の曖昧性など、解決すべき課題は多く残されています。Jリーグは、ベストメンバー規定の撤廃によって、クラブの自主性を尊重する方向に進みましたが、その効果や、新たな課題の発生については、今後の推移を見守る必要があります。

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