ベリエフ R-1

ベリエフ R-1（Beriev R-1）は、第二次世界大戦後の技術革新期、特にジェット化の波に乗って、当時のソビエト連邦で開発された試作ジェット飛行艇です。

戦後、ソビエト海軍は旧式化しつつあった飛行艇Be-6の後継となる新型機の開発をベリエフ設計局（第49設計局）に指示しました。これが「プロジェクトR」と呼ばれる計画の始まりです。1948年6月には、海軍当局から具体的な要求仕様が提示されました。それによれば、本機は乗員3名を擁し、2,000kmから2,500kmの長大な航続距離と、800km/hという当時の飛行艇としては高速な巡航性能が求められました。さらに、レーダーを装備して悪天候下でも任務を遂行できる全天候性が必須とされ、広域偵察や攻撃任務への投入が想定されました。武装面では、強力な20mm機関砲4門と、最大2,000kgの爆弾搭載能力が要求されており、単なる偵察機に留まらない多用途性が期待されていました。

機体設計には、当時の先進的な思想が取り入れられました。操縦席は機体中心軸から意図的にずらして設置されており、水滴のような流線型の与圧キャノピーを備えていました。これは、長時間の高々度飛行や高速飛行における乗員の快適性と安全性を考慮したものです。また、緊急時には乗員を保護するための射出座席も装備されていました。機体後部には防御武装として動力式の旋回銃座を備え、尾翼はT字型が採用されました。主翼は、水上離着水時の水しぶきからエンジンを守るため、独特なガルウィング（逆ガル翼）形状が特徴的でした。エンジンは、開発初期段階で計画されていたイギリス製ロールスロイス・ニーンから、より出力の高いソビエト国産クリモフWK-1に変更されました。離水性能を向上させるための補助ロケットや、対艦・対潜任務用の500kg機雷2個を搭載する能力も付加されていました。

開発は進み、1950年6月には実物大モックアップが製作されました。そして1951年11月に待望の試作機が完成します。同年11月24日には最初の水上滑走試験が実施されましたが、ここで深刻な問題が発生します。時速約165kmで滑走中に、機首が制御不能に激しく上下動するピッチング振動が発生し、機体は大きな損傷を受けてしまいました。機体は時間をかけて修理されましたが、1952年5月30日に行われた初飛行後も、高速での水上滑走時におけるこの厄介な振動問題は解決されないままでした。

設計局は揚力装置の改良などを含む改修を施し、1953年7月18日に改修機による試験を再開しました。しかし、この頃には、より将来性が見込まれていた新型ジェット飛行艇Be-10の開発が進行しており、R-1の試験は主にBe-10開発のための技術データ収集という目的で行われました。そして、1956年2月に再び事故を起こし、もはや改良・実用化の可能性はないと判断されたR-1は、以降修理されることなくプロジェクトは事実上終了しました。

ベリエフ R-1は、ソ連初のジェット飛行艇として多くの技術的課題に直面し、特に水上機特有の高速滑走時の動安定性問題に阻まれましたが、その経験は後続のジェット飛行艇開発に活かされることとなりました。

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