ベローシファカ

ベローシファカ（Propithecus verreauxi）

ベローシファカは、アフリカ大陸の東に位置する島国、マダガスカル島の南部から西部にかけて分布する、インドリ科シファカ属に分類される霊長類です。その独特の移動方法から「踊るサル」とも呼ばれ、マダガスカルの乾燥林や河辺林といった特定の環境に適応して生息しています。

形態的には、成獣の体長は約39センチメートルから50センチメートル、それに比べて長い尾は47.5センチメートルから60センチメートルにもなります。体重は通常3キログラムから4.5キログラム程度です。全身はふさふさとした白い体毛で覆われていますが、頭頂部には黒やチョコレート色の毛が見られます。

分類に関しては、以前は広く分布するいくつかの地理的な亜種を含むとされていました。しかし、2000年代以降の分子系統学的な研究などを経て、かつて亜種とされていたコクレルシファカ（P. coquereli）、クロカンムリシファカ（P. coronatus）、デッケンシファカ（P. deckenii）はそれぞれ独立した種として扱われる説が有力となっています。現在「ベローシファカ」として認識されるのは、主にマダガスカル南西部に限定された集団を指すことが多くなっています。

生態面では、ベローシファカは典型的な樹上棲動物であり、日中に活動する昼行性です。通常、2頭から12頭程度の小規模な群れを形成し、複数のオスとメスが共に生活します。彼らの最も特徴的な行動は、樹間を移動する際の驚異的な跳躍能力です。強力な後肢を使い、最大で10メートルもの距離を軽々と飛び移ることができます。

しかし、木と木の間隔が広すぎる場所や地上を移動する際には、直立した姿勢で前肢と尾を使ってバランスを取りながら、地面を横方向に跳ねるような独特の歩き方をします。この姿が「踊るサル」と呼ばれる所以の一つであり、マダガスカルの乾燥した環境で効率的に移動するための適応と考えられています。

食性は植物食に特化しており、主に木の葉、花、果実などを季節に応じて食べ分けます。水分摂取の方法も特徴的で、地上の水たまりなどから直接水を飲むことは稀です。代わりに、植物に含まれる水分や、葉っぱの表面に溜まった朝露などを舐めることで、必要な水分を補給しています。

繁殖様式は胎生です。通常、1月から2月にかけて交尾が行われ、約155日から165日間の妊娠期間を経て、6月から7月頃に1回の出産で1頭の幼獣を産みます。幼獣は母親にしがみつきながら樹上での生活を学び、生後3年から5年で性的に成熟し、繁殖能力を持つようになります。

ベローシファカは、人間活動によってその生息環境が脅かされています。農地開発、焼畑農業、薪や木炭の採取、さらには帆船やカヌー建造のための伐採などが、彼らの住処である森林の破壊の主な原因となっています。また、家畜の牧草地を確保するための無制御な野焼きも深刻な影響を与えています。

一部の部族ではベローシファカを食用とすることを伝統的に禁忌としていますが、近年では移民などによる狩猟も生息数減少の一因となっています。さらに、長期的な干ばつによる植生への影響も、彼らの生存に対する懸念材料となっています。このような状況から、ベローシファカを含むインドリ科全体は、1975年のワシントン条約（絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約）の発効当初から附属書Iに掲載されており、国際的な商取引は厳しく制限されています。このユニークな霊長類の未来を守るためには、生息地の保全と持続可能な地域開発が不可欠です。

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