ベントレー・コーニッシュ

ベントレー コーニッシュ：地中海の風を纏った英国車

ベントレー コーニッシュ。この名は、フランス南部コート・ダジュールの美しい海岸道路「コーニッシュ」に由来しています。その優雅な響きは、この車が持つ気品と高性能を象徴しているかのようです。しかし、コーニッシュの歴史は、華麗なイメージとは対照的な、幾多のドラマを秘めています。

戦火に消えた夢：オリジナル コーニッシュ

最初のコーニッシュは、1939年、パリのコーチビルダー、ヴァン・ヴォーレンの手によって誕生しました。ベントレーマークVをベースに、エンジン性能を大幅に向上させた試作車でした。最高速度は、マークVの156km/hから193km/hへと劇的に向上し、その圧倒的な性能は、多くの人々を魅了しました。しかし、第二次世界大戦の勃発によって、量産化の夢は断たれます。完成した4台のシャシのうち、ボディが架装されたのはわずか1台のみ。ヨーロッパ大陸で24,000kmにも及ぶ耐久テストを終え、イギリスへの輸送を待つばかりだったその車は、ディエップ港での爆撃、あるいはダンケルク空爆により、海に沈んだと伝えられています。この悲劇は、コーニッシュという名に、一抹の影を落とすことになります。

蘇る名車：1970～80年代のコーニッシュ

それから約30年後、ベントレーは再び「コーニッシュ」の名を復活させます。1971年3月、ベントレーT1をベースに、2ドアサルーンとコンバーチブルが発売されました。アメリカ基準の排気浄化装置を取り外すことで、出力を約10％向上。内装もより高級なものへと変更され、スポーティな走りとラグジュアリーな空間が融合したモデルとして生まれ変わりました。ロールスロイスブランドでも「ロールスロイス コーニッシュ」として販売されたことは、その高い完成度を示す証と言えるでしょう。最高速度は192km/hを超え、前輪ブレーキにはベンチレーテッドディスクが採用されるなど、当時としては最先端の技術が惜しみなく投入されました。また、タコメーターの装備や、ウッドリムのステアリングホイール（直径約38cm）など、ドライバーを意識したスポーティな仕様も特徴です。

クーペモデルは1982年に生産終了。コンバーチブルのみが継続されましたが、1984年には「コンチネンタル」へとモデル名が変更され、コーニッシュの歴史に幕を閉じました。その短い期間において、クーペ63台、コンバーチブル77台、合計140台のコーニッシュが生産されたのみ。希少性の高さも、このモデルの魅力となっています。

コーニッシュの系譜：その後のベントレー

コーニッシュは、その短い生産期間にもかかわらず、ベントレーの歴史に大きな足跡を残しました。戦火をくぐり抜け、現代に蘇ったそのモデルは、高級車としての伝統と、スポーティな走りの両立という、ベントレーの新たな可能性を示したと言えるでしょう。コーニッシュの系譜は、後のベントレーモデルにも受け継がれ、現在のベントレーの礎を築いたと言えるのです。

参考文献

『ワールド・カー・ガイド27ロールス・ロイス&ベントレー』ネコ・パブリッシング ISBN 4-87366-166-8
高島鎮雄『世界の自動車-22 ロールス・ロイス ベントレー - 戦後』二玄社
* 『外国車ガイドブック1979』日刊自動車新聞社

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