ベントレー・マークV

ベントレー マークV：戦火の影に消えた希少車

ベントレー マークVは、1939年から1941年という、第二次世界大戦の影が忍び寄る時代に製造された高級乗用車です。ロールスロイス・レイスを原点とするものの、よりコンパクトで簡素な設計が特徴でした。しかし、単なる小型化にとどまらず、当時としては先進的な技術も採用されています。特に注目すべきは、前輪にコイルスプリングを用いた独立懸架の導入です。これは、乗り心地の大幅な向上に貢献しました。

パワートレインは、レイスと基本的に共通の4¼リットルエンジンを搭載。最高速度は156km/hに達し、当時の高級車として十分な動力性能を誇っていました。シャシのホイールベースは、レイスの136インチから124インチへと短縮されましたが、それでもその存在感は圧倒的でした。

しかし、マークVの生産台数は、戦争の勃発によって大きく制限されました。完成したシャシはわずか15台、実際にボディが架装された車両は11台に留まりました。これは、当時の世界情勢が自動車産業にも大きな影響を及ぼしたことを如実に示しています。

さらに、性能向上を目指した改良版も計画されました。それが、圧縮比を高め、より大型のキャブレターを搭載した「コーニッシュ」です。しかし、このモデルは試作1台のみで終わってしまいました。戦争によって、革新的な技術の開発や生産は困難を極めたのです。

マークVの後継車となるのは、戦後の1946年に登場したマークVIです。このモデルは、ロールスロイス・シルヴァードーンと兄弟車という関係にあり、戦後の復興を象徴する存在として、再びベントレーの名声を高めました。マークVは、量産には至らなかったものの、戦時下の困難な状況の中で生まれた希少な高級車として、自動車史にその名を残しています。その存在は、技術革新と戦争という、相反する二つの側面を私たちに示唆する貴重な証となっています。希少性ゆえに、その姿を見ることは容易ではありませんが、もし目にする機会があれば、その歴史と背景に思いを馳せてみてください。

参考文献

『ワールド・カー・ガイド27 ロールス・ロイス&ベントレー』ネコ・パブリッシング ISBN 4-87366-166-8
高島鎮雄『世界の自動車-22 ロールス・ロイス ベントレー - 戦後』二玄社

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