ベントレー・Sタイプ

ベントレーSシリーズ：伝統と革新の高級車

ベントレーSシリーズは、1955年から1965年にかけて製造された、同社を代表する高級車です。その歴史は、Rタイプの後継として登場したS1から始まり、S2、S3と進化を遂げました。本稿では、各モデルの特徴と、その技術的な詳細、そして生産背景について解説します。

ベントレーS1 (1955年-1959年)

S1は、ロールスロイス・シルヴァークラウドと兄弟車として誕生しました。エンジンはシルヴァークラウドの4,887ccエンジンをベースに改良を加え、圧縮比を高め、ツインキャブレターを装備することで、よりパワフルな走りを実現しました。シャシは、改良されたラダーフレームを採用し、サスペンションはシルヴァードーンからの流用ですが、強化が施されています。トランスミッションは、4速オートマチックのみとなりました。ブレーキシステムも強化され、制動力の向上に貢献しています。

ボディデザインは、フェンダーとボディの一体化、トランクルームのボディへの統合など、近代的なデザインを取り入れました。重量は増加したものの、最高速度は170km/hに達し、優れた性能を誇ります。1956年にはパワーステアリングがオプション設定され、1957年にはロングホイールベース版が登場し、パワーステアリングが標準装備となりました。生産台数は約3,072台で、その中にはコーチビルダーによるカスタマイズされた車両も含まれます。

ベントレーS2 (1959年-1962年)

1959年、S1の後継としてS2が登場しました。最大の変更点は、新開発の6.2リッターV8エンジンを搭載したことです。アルミ製ブロックを採用したこのエンジンは、より強力で滑らかな走りを実現しました。一方、ボディはS1と大きな変更はありませんが、冷房装置の搭載を見越した換気システムが採用されました。このエンジン搭載により、最高速度は185km/hに向上しました。生産台数は約1,865台で、コーチビルト仕様は限定的でした。

ベントレーS3 (1962年-1965年)

S3は1962年に登場し、ボディデザインが大きく変更されました。ヘッドライトは4灯式となり、ラジエターグリルも小型化されました。フロントフェンダーのデザインは、方向指示器と車幅灯が一体化されており、後のモデルにも受け継がれました。エンジンは、真空進角ディストリビューターの採用、圧縮比の向上、キャブレターの大径化、パワーステアリングの改良により、出力向上を実現しました。最高速度は188km/hに達しました。生産台数は約1,286台でした。S3をもって、Sシリーズは生産終了となりました。

コーチビルダーとの関係性

Sシリーズの生産において、コーチビルダーの存在は無視できません。特にS1では、多くのコーチビルダーが個性的で贅沢なボディを製作しました。しかし、Sシリーズが進むにつれて、標準ボディの完成度が高まり、コーチビルダーの需要は減少しました。これは、ボディデザインの近代化と標準ボディの完成度の高さ、そして高価格なコーチビルト仕様への需要減少が影響していると考えられます。

まとめ

ベントレーSシリーズは、戦後の高級車市場において重要な役割を果たしました。ロールスロイスとの技術的なつながり、そしてコーチビルダーとの協業は、ベントレーの歴史を語る上で欠かせない要素です。エンジン、ボディ、そして装備の進化は、ベントレーの技術力の高さを示しており、それらの高級車は、今もなお多くのコレクターや愛好家から高く評価されています。各モデルの生産台数は、その時代の需要や技術革新を反映していると言えます。Sシリーズの成功は、ベントレーブランドの確立に大きく貢献したと言えるでしょう。

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