ペスチウイルス属
ペスチウイルス属の概要
ペスチウイルス属（Genus Pestivirus）は、フラビウイルス科（Flaviviridae）に属するウイルスの一群を指します。これらのウイルスは、脂質の二重膜であるエンベロープを外側に備えており、内部には約12.3キロベースのプラス鎖一本鎖RNAゲノムを収納しています。偶蹄類をはじめとする様々な動物種に感染し、時に重要な病気を引き起こす病原体として知られています。
ゲノム構造とタンパク質の生成
ペスチウイルス属のウイルスゲノムの中心には、約4,000個のアミノ酸から構成される巨大なポリプロテインをコードする、ただ一つのオープンリーディングフレーム（ORF）が存在します。このポリプロテインは、翻訳後にウイルスの持つプロテアーゼや宿主細胞のプロテアーゼの働きによって切断（開裂）され、機能を果たす11または12個の成熟したウイルスタンパク質へと分解されます。ゲノム上のORFにおけるタンパク質の配列順序は、N末端側からNpro、C、Erns、E1、E2、p7、NS2/3、NS4A、NS4B、NS5A、NS5Bとなっています。特筆すべきはNproと呼ばれるタンパク質で、これはペスチウイルス属に特徴的な非構造タンパク質であり、同じフラビウイルス科に属する他の属、例えばフラビウイルス属やヘパシウイルス属のウイルスからは見出されていません。
フラビウイルス科内の位置づけと特性
フラビウイルス科には、ペスチウイルス属以外にも、デング熱ウイルスやC型肝炎ウイルスを含むフラビウイルス属やヘパシウイルス属といった重要なウイルス群が存在します。フラビウイルス属のウイルスが多くの種で節足動物の細胞内でも増殖可能なのに対し、ペスチウイルス属のウイルスは一般的に節足動物細胞では増殖しないという生物学的な違いが見られます。
代表的なウイルス種
現在、ペスチウイルス属には主に四つの認められた種が存在します。これらは、牛に下痢や繁殖障害などを引き起こす牛ウイルス性下痢ウイルス1型（bovine viral diarrhea virus 1）および2型（bovine viral diarrhea virus 2）、羊にボーダー病を引き起こすボーダー病ウイルス（border disease virus）、そして豚に致命的な熱性疾患をもたらす豚熱ウイルス（classical swine fever virus, 旧称豚コレラウイルス）です。これらの主要な4種類のウイルス間で、オープンリーディングフレーム（ORF）におけるアミノ酸配列の相同性は、概ね71%から78%の範囲にあります。また、アフリカのキリンから分離されたウイルスのように、分類学上の位置づけが一時的または暫定的な種とされるペスチウイルスも存在します。
分類方法の変遷
以前は、ペスチウイルス属のウイルス種は、主に感染が確認された宿主動物の種類に基づいて分類されていました。しかし、ペスチウイルスが偶蹄類の間で容易に種を超えて感染することが明らかになったため、現在ではウイルスのゲノムが持つ塩基配列情報に基づく遺伝的な分類法が主流となっています。遺伝型を決定し細分類を行う際には、ウイルスのゲノムの中でも特に多様性の高い領域である5'非翻訳領域（5'-UTR）、Nproタンパク質をコードする領域、およびE2タンパク質をコードする領域などが重要な指標として用いられています。
伝播特性
ペスチウイルス属のウイルスは、主に感染した偶蹄類動物の間で、動物種の壁を越えて効率的に伝播します。感染動物との直接的な接触や、ウイルスで汚染された環境、分泌物などを介して水平感染が広がります。また、一部の種では母胎内感染も起こり得ます。
関連情報
関連する項目としては、「フラビウイルス科」や「ウイルスの分類」などが挙げられます。
参考文献
鹿江雅光他編集 『最新家畜微生物学』 1998年 朝倉書院 ISBN 4-25-446019-8
S.Vilcek, J.F.Ridpath, H.Van Campen, J.L.Cavender, J.Warg, "Characterization of a novel pestivirus originating from a pronghorn antelope", Virus Research, 108, 2005, PP.187-193
ペスチウイルス属（Genus Pestivirus）は、フラビウイルス科（Flaviviridae）に属するウイルスの一群を指します。これらのウイルスは、脂質の二重膜であるエンベロープを外側に備えており、内部には約12.3キロベースのプラス鎖一本鎖RNAゲノムを収納しています。偶蹄類をはじめとする様々な動物種に感染し、時に重要な病気を引き起こす病原体として知られています。
ゲノム構造とタンパク質の生成
ペスチウイルス属のウイルスゲノムの中心には、約4,000個のアミノ酸から構成される巨大なポリプロテインをコードする、ただ一つのオープンリーディングフレーム（ORF）が存在します。このポリプロテインは、翻訳後にウイルスの持つプロテアーゼや宿主細胞のプロテアーゼの働きによって切断（開裂）され、機能を果たす11または12個の成熟したウイルスタンパク質へと分解されます。ゲノム上のORFにおけるタンパク質の配列順序は、N末端側からNpro、C、Erns、E1、E2、p7、NS2/3、NS4A、NS4B、NS5A、NS5Bとなっています。特筆すべきはNproと呼ばれるタンパク質で、これはペスチウイルス属に特徴的な非構造タンパク質であり、同じフラビウイルス科に属する他の属、例えばフラビウイルス属やヘパシウイルス属のウイルスからは見出されていません。
フラビウイルス科内の位置づけと特性
フラビウイルス科には、ペスチウイルス属以外にも、デング熱ウイルスやC型肝炎ウイルスを含むフラビウイルス属やヘパシウイルス属といった重要なウイルス群が存在します。フラビウイルス属のウイルスが多くの種で節足動物の細胞内でも増殖可能なのに対し、ペスチウイルス属のウイルスは一般的に節足動物細胞では増殖しないという生物学的な違いが見られます。
代表的なウイルス種
現在、ペスチウイルス属には主に四つの認められた種が存在します。これらは、牛に下痢や繁殖障害などを引き起こす牛ウイルス性下痢ウイルス1型（bovine viral diarrhea virus 1）および2型（bovine viral diarrhea virus 2）、羊にボーダー病を引き起こすボーダー病ウイルス（border disease virus）、そして豚に致命的な熱性疾患をもたらす豚熱ウイルス（classical swine fever virus, 旧称豚コレラウイルス）です。これらの主要な4種類のウイルス間で、オープンリーディングフレーム（ORF）におけるアミノ酸配列の相同性は、概ね71%から78%の範囲にあります。また、アフリカのキリンから分離されたウイルスのように、分類学上の位置づけが一時的または暫定的な種とされるペスチウイルスも存在します。
分類方法の変遷
以前は、ペスチウイルス属のウイルス種は、主に感染が確認された宿主動物の種類に基づいて分類されていました。しかし、ペスチウイルスが偶蹄類の間で容易に種を超えて感染することが明らかになったため、現在ではウイルスのゲノムが持つ塩基配列情報に基づく遺伝的な分類法が主流となっています。遺伝型を決定し細分類を行う際には、ウイルスのゲノムの中でも特に多様性の高い領域である5'非翻訳領域（5'-UTR）、Nproタンパク質をコードする領域、およびE2タンパク質をコードする領域などが重要な指標として用いられています。
伝播特性
ペスチウイルス属のウイルスは、主に感染した偶蹄類動物の間で、動物種の壁を越えて効率的に伝播します。感染動物との直接的な接触や、ウイルスで汚染された環境、分泌物などを介して水平感染が広がります。また、一部の種では母胎内感染も起こり得ます。
関連情報
関連する項目としては、「フラビウイルス科」や「ウイルスの分類」などが挙げられます。
参考文献
鹿江雅光他編集 『最新家畜微生物学』 1998年 朝倉書院 ISBN 4-25-446019-8
S.Vilcek, J.F.Ridpath, H.Van Campen, J.L.Cavender, J.Warg, "Characterization of a novel pestivirus originating from a pronghorn antelope", Virus Research, 108, 2005, PP.187-193
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