ペリメーター理論物理学研究所

ペリメーター理論物理学研究所（Perimeter Institute for Theoretical Physics、通称PI）は、カナダのオンタリオ州ウォータールーにある、基礎理論物理学の研究に専念する独立した研究センターです。1999年に、カナダの著名な起業家であり慈善家でもあるマイク・ラザリディス氏によって設立され、彼が主要な後援者となっています。

設立と歴史

研究所の誕生は、創設者マイク・ラザリディス氏の慷慨な寄付に始まります。2000年10月23日に行われた最初の1億ドルの寄付は、当時カナダ史上最高額の個人寄付として記録されました。その後も2008年に5000万ドルの追加寄付が行われるなど、彼の強力な支援が研究所の基盤を築きました。研究活動は2001年に本格的にスタートしました。

研究所のリーダーシップは、その歴史の中で引き継がれてきました。初期の所長であるハワード・バートン氏の後任として、2008年5月には宇宙論研究者のニール・トゥロック氏が就任しました。トゥロック氏の在任期間中、物理学界の巨星であるスティーブン・ホーキング博士が2008年11月に客員研究員（Distinguished Visiting Research Chair）として研究所に参加することが発表され、大きな注目を集めました。トゥロック氏は2019年2月28日に所長職を退任し、現在はロバート・マイヤーズ博士がその任にあたっています。

施設

ペリメーター研究所の建物は、その建築デザインでも知られています。Saucier + Perrotteが設計したオリジナルの建物は2004年に完成し、2006年にはカナダ王立建築協会から Governor General's Medal for Architecture を受賞しています。施設の拡張として、Teeple Architectsが設計したスティーブンホーキングセンターが2011年にオープンしました。この新しい建物は環境性能にも配慮されており、2015年にはLEEDシルバー認定を受けています。

研究活動

ペリメーター研究所における理論物理学の研究は、広範な分野にわたっています。主な研究領域は以下の9つです。

物性物理学
宇宙論
数理物理学
素粒子物理学
場の量子論と弦理論
量子基礎論
量子重力
量子情報科学
強い重力場

研究所には常駐の研究者のほか、毎年多数の国内外からの訪問研究者を受け入れ、活発な議論と共同研究が行われています。Asimina Arvanitaki氏、Freddy Cachazo氏、デービッド・ガイオット氏、Pedro Vieira氏など、基礎物理学ブレイクスルー賞（ニューホライズンズ賞）を受賞した研究者や、ループ量子重力のリー・スモーリン氏、量子情報のダニエル・ゴッテスマン氏、ケンドリック・スミス氏といった著名な物理学者が所属、あるいは研究活動を行っています。

情報公開とアウトリーチ

ペリメーター研究所は、研究成果を広く社会と共有することにも力を入れています。

Perimeter Institute Recorded Seminar Archive (PIRSA)

研究所で行われたセミナー、会議、ワークショップなどの記録は、Perimeter Institute Recorded Seminar Archive (PIRSA)としてインターネットを通じて無料で公開されています。これは、研究活動の多様性を反映した広範なアーカイブであり、世界中の研究者や物理学に関心を持つ人々がアクセスできる貴重な情報源となっています。動画、音声、プレゼンテーション資料などが検索可能な形式で提供されています。

教育的支援活動

ペリメーター研究所の教育アウトリーチチームは、多様な活動を通じて科学教育と普及に貢献しています。主な活動には以下のようなものがあります。

公開講座シリーズ: 著名な科学者を招いて行われる月例の講演会。過去にはフリーマン・ダイソン、ヘーラルト・トホーフト、ロジャー・ペンローズ、レオナルド・サスキンド、フランク・ウィルチェックといった大家が登壇しています。
ISSYP (The International Summer School for Young Physicists): 毎年夏に開催される、16歳から18歳までの高校生を対象とした2週間の物理学サマーキャンプ。カナダ国内外から約40名の学生が参加します。
EinsteinPlus: 高校の物理教師を対象とした年恒例の1週間の専門能力開発ワークショップ。
科学フェスティバル: 技術革新や基礎科学の重要性を啓発するための大規模なイベントも開催しています。例えば、2013年の「BrainSTEM: Your Future is Now」や2009年の「Quantum to Cosmos: Ideas for the Future festival (Q2C Festival)」は、展示、講演、実験デモンストレーションなどを通じて、多数の参加者を集め、科学への関心を高めることに貢献しました。Q2Cフェスティバルには約4万人が来場し、オンラインやテレビ放送を含めると100万人近い視聴者にリーチしました。
その他にも、教育リソースのオンラインアーカイブ提供、科学教師ネットワークの構築、アートとの融合イベントなど、幅広い活動を展開しています。

大学院プログラム

ペリメーター研究所は、ウォータールー大学などの提携大学と連携し、次世代の研究者育成にも注力しています。

Perimeter Scholars International (PSI): ウォータールー大学との共同による理論物理学の10ヶ月間の修士課程プログラムです。毎年約30名の奨学生を受け入れ、成績優秀者には全額奨学金と生活費が支給されます。
博士課程: 主任研究員の指導のもと、博士課程の研究を行う学生も受け入れています。学位は提携大学から授与されます。
* 一般コース: 研究所の教員や訪問研究者によるコースも多数提供されており、ウォータールー大学をはじめとする周辺大学の学生が受講可能です。

ペリメーター理論物理学研究所は、最先端の理論物理学研究を推進するだけでなく、積極的な教育・アウトリーチ活動を通じて、科学知識の普及と未来の研究者育成に多大な貢献をしています。

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