ペーター・ザイゼンバッハー

ペーター・ザイゼンバッハー：栄光と転落の柔道家

ペーター・ザイゼンバッハー（Peter Seisenbacher）は、1960年3月25日、オーストリアのウィーンで生まれました。身長186cmの恵まれた体格を生かし、大外刈を武器とする柔道家として、数々の輝かしい実績を残しました。

6歳で柔道を始めたザイゼンバッハーは、20歳で1980年のモスクワオリンピックに出場。しかし、結果は19位と振るいませんでした。その後、1984年のロサンゼルスオリンピックに向けて、練習環境を求めて来日。東海大学や筑波大学で研鑽を積みました。そして、ロサンゼルスオリンピック86kg級で、オーストリアの柔道家として初の金メダルを獲得。1985年の世界選手権でも優勝を果たしました。

1988年のソウルオリンピックでは、2大会連続となる金メダルを獲得。オリンピック柔道史上初の2連覇という偉業を成し遂げました。これらの功績により、1984年、1985年、1988年にはオーストリアのスポーツマンオブザイヤーを受賞しています。

オリンピック2連覇後、ザイゼンバッハーは引退を表明。スポーツエイドの事務局長やオーストリア男子ナショナルチームのコーチに就任しました。しかし、1991年のオーストリア国際で、自チームの選手に暴力を振るったことが発覚し、コーチを辞任。法廷から罰金刑を言い渡されることになりました。

その後、2010年から2012年のロンドンオリンピックまでグルジアナショナルチームのヘッドコーチを務め、ラシャ・シャフダトゥアシビリを金メダルに導きました。さらに、アゼルバイジャンナショナルチームのヘッドコーチとして、2016年リオデジャネイロオリンピックまで契約。2013年にはIJFの殿堂入りを果たし、世界選手権ではエルハン・ママドフを金メダル獲得に貢献しました。しかし、2013年末に辞任しています。2015年には再びアゼルバイジャン代表チームのヘッドコーチに就任し、2020年の東京オリンピックまで任期を務める予定でした。

しかし、2016年8月のリオデジャネイロオリンピック後、ザイゼンバッハーは大きな転落を迎えます。10月、ウィーンのクラブでコーチをしていた1999年から2004年にかけて、2名の少女に性的虐待を加えたとして告発されたのです。被害者のうち一人は、当時11歳だった1999年から14歳になる2002年までの間に度々虐待を受けたと訴えています。もう一人の少女は、13歳だった2004年に虐待を受けたとされています。また、2001年にはクロアチアで16歳の少女に性的虐待を試みたとされています。

オーストリアの検察当局は出頭を要請しましたが、ザイゼンバッハーはこれに応じず、逮捕状が発行され国際手配される事態となりました。2017年8月1日、ウクライナのキエフで逮捕されましたが、ウクライナがオーストリアとの犯罪人引渡し条約を締結していなかったため、オーストリアへの引き渡しは拒否され、釈放されました。その後、2019年9月にポーランドへ偽造旅券で入国しようとして逮捕され、ようやくオーストリアへ身柄が引き渡されることとなりました。同年12月には禁錮5年の判決が言い渡され、2022年11月に仮釈放されています。

主な戦績

1984年 ロサンゼルスオリンピック 優勝
1985年 世界選手権 優勝
1988年 ソウルオリンピック 優勝
ヨーロッパ選手権 優勝 1回
* 世界軍人選手権 優勝 多数

栄光の柔道家から一転、性的虐待事件で逮捕されるという衝撃的な転落。ペーター・ザイゼンバッハーの人生は、光と闇が交錯する複雑な物語として、人々に語り継がれることでしょう。

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