ホスホリボシル二リン酸

ホスホリボシル二リン酸（Phosphoribosyl diphosphate, PRPP）

ホスホリボシル二リン酸は、Phosphoribosyl diphosphateの頭文字をとってPRPPとも略記される、生体内に普遍的に存在する極めて重要な糖リン酸の一つです。代謝の中間体として、多くの生合成経路の鍵を握る役割を果たしています。

この分子は、リボース骨格の1位の炭素に二つのリン酸基が結合した焦リン酸基、そして5位の炭素にリン酸基が結合した構造を持っています。特に1位に結合した焦リン酸基は反応性が非常に高く、様々な分子へリボースリン酸部分を転移させるための活性化された形態として機能します。

PRPPの生合成は、主に細胞質で行われます。その主要な合成経路は、ペントースリン酸経路などによって供給されるリボース-5-リン酸を基質としています。このリボース-5-リン酸に、ATP（アデノシン三リン酸）由来の焦リン酸基が転移される反応を触媒するのが、リボースリン酸ジホスホキナーゼ（PRPPシンターゼ）と呼ばれる酵素です。

反応式として示すと、以下のようになります。


ATP + リボース-5-リン酸 → AMP + ピロリン酸 + PRPP


この反応では、ATPからアデノシン一リン酸（AMP）とピロリン酸（PPi）が生成すると同時に、リボース-5-リン酸の1位に焦リン酸基が付加され、PRPPが合成されます。PRPPシンターゼの活性は、アデノシン三リン酸（ATP）やマグネシウムイオン（Mg2+）によって促進される一方、反応生成物であるPRPPやアデノシン一リン酸（AMP）、アデノシン二リン酸（ADP）などによってフィードバック阻害を受けることが知られており、細胞内のPRPP濃度は厳密に制御されています。

PRPPの最も重要な役割は、様々な生合成経路においてリボースリン酸単位の供給源となることです。特に、DNAやRNAの構成要素であるヌクレオチドの合成には欠かせない出発物質です。

1. プリンヌクレオチド合成: プリンヌクレオチドのデノボ（新規）合成経路の最初の段階において、PRPPはグルタミンからのアミノ基を受け取り、5-ホスホリボシル-1-アミンを生成する反応に関与します。また、サルベージ経路においても、アデニンやグアニンといった遊離のプリン塩基にリボースリン酸を付加することで、対応するヌクレオチド（AMP, GMPなど）を再生する際にPRPPが利用されます。

2. ピリミジンヌクレオチド合成: ピリミジンヌクレオチドの合成経路では、プリンとは異なりまずピリミジン環が先に合成されます。その後、その合成中間体であるオロチン酸にPRPPからリボースリン酸が転移されることで、ウリジン一リン酸（UMP）が生成されます。この反応を触媒するのは、オロチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼです。

3. その他の生合成: PRPPはヌクレオチド合成だけでなく、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド（NAD+）のような重要な補酵素の合成や、アミノ酸であるヒスチジンの生合成経路（一部の生物ではトリプトファン合成にも関与）においても、リボースリン酸供与体として中心的な役割を担っています。

このように、PRPPは核酸の合成、エネルギー代謝、様々な補酵素やアミノ酸の合成など、細胞の根幹に関わる広範な生化学反応の出発点となる分子であり、その代謝状態は細胞の増殖や機能に大きな影響を与えます。PRPPの適切な供給と代謝経路へのスムーズな供給は、生命維持にとって極めて重要です。

関連する代謝経路として、ピリミジン代謝、プリン代謝、そしてPRPPの合成に必要なリボース-5-リン酸を供給するペントースリン酸経路などが挙げられます。

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