ホタルイカモドキ科

ホタルイカモドキ科

ホタルイカモドキ科（Enoploteuthidae）は、ツツイカ目-開眼亜目に属するイカの分類群の一つです。ホタルイカに似た発光器官を持つことが特徴で、世界中の温帯・熱帯域の外洋に広く分布しています。4属39種が確認されており、未記載種も存在すると考えられています。科の名称は、模式属であるホタルイカモドキ属（Enoploteuthis）に由来します。

分布と生態

ホタルイカモドキ科のイカは比較的小型で、全世界の温帯・熱帯外洋域に生息しています。赤道付近から冷水域まで、様々な水塊の亜表層から中層にかけて分布し、遊泳力の低いマイクロネクトンとして水中を漂っています。外洋性のイカとしては種の多様性が高く、バイオマスも豊富です。自身は高次の捕食者であると同時に、大型の遊泳生物に捕食される重要な餌生物でもあります。また、中層と表層を日周鉛直移動することで、中深層への物質輸送にも関与していると考えられています。

形態

外套膜は円錐形または円筒形で、後方に向かって細くなり、後端はゼラチン質の尾部となります。体表腹面には粒状の発光器が多数存在し、明瞭な配列を示す種類もいます。眼胞腹面には5〜9個の発光器を持ちますが、触腕や内臓には発光器はありません。腕には2列の吸盤があり、基部側の吸盤は小鉤に変形し、成体では先端部にのみ吸盤が残ります。オスの右第IV腕は交接腕として機能し、半月状の膜が発達し、吸盤や鉤が消失することが多いです。触腕は一般的に長く、掌部基部には少数の吸盤と肉瘤、中央部には鉤が1〜2列並び、先端部には小さな吸盤が密に並びます。纏卵腺を持たないため、卵は細い卵紐として産み出されます。

分類

ホタルイカモドキ科は、以下の4属に分類されます。

ホタルイカモドキ属（Enoploteuthis）
ナンヨウホタルイカ属（Abralia）
ニセホタルイカ属（Abraliopsis）
ホタルイカ属（Watasenia）

これらの属間の系統関係については、まだ十分な研究が進んでいません。特に、ホタルイカ属は、触腕以外の形態的な特徴がニセホタルイカ属と明確に区別できないことから、ニセホタルイカ属の亜属となる可能性も指摘されています。

形態的な特徴に基づき、ホタルイカモドキ科はホタルイカモドキ亜科（Enoploteuthinae）とナンヨウホタルイカ亜科（Abraliinae）の2亜科に分けられます。ホタルイカモドキ亜科には、ヒレが外套膜後端よりも前に位置し、眼胞上の発光器が9個であるホタルイカモドキ属のみが含まれます。ナンヨウホタルイカ亜科には、ヒレが外套膜後端と同位置にあり、眼胞上の発光器が5個である残りの3属が含まれます（ナンヨウホタルイカ属では、5個の発光器に加えて小発光器が存在することがあります）。

また、ホタルイカモドキ科は、ダイオウホタルイカ科、マダマイカ科、ヒカリイカ科と共通する特徴（腕と触腕に鉤を持つ、囲口膜に8本の支持肉柱を持つ、など）を持ち、ホタルイカモドキ科群としてまとめられることがあります。しかし、科レベルでの系統解析では異なる結果も示唆されており、確定的な結論は得られていません。従来のツツイカ類が単系統群ではないとする説もあり、ホタルイカモドキ科がイカ類の中で最も早く分岐したとする仮説も存在します。

ホタルイカモドキ科の種

以下に、ホタルイカモドキ科に含まれる主な種を属ごとに示します。

ホタルイカモドキ属 (Enoploteuthis)
モトホタルイカモドキ (Enoploteuthis leptura)
タイセイヨウホタルイカモドキ (Enoploteuthis anapsis)
ホタルイカモドキ (Enoploteuthis chuni)
ナンヨウホタルイカ属 (Abralia)
タイワンホタルイカ (Abralia multihamata)
タイセイヨウホタルイカ (Abralia veranyi)
ホシゾラホタルイカ (Abralia astrosticta)
ナンヨウホタルイカ (Abralia andamanica)
*ニセホタルイカ属 (Abraliopsis)
カリフォルニアホタルイカ (Abraliopsis felis)
ホイルホタルイカ (Abraliopsis hoylei)
タイヘイヨウホタルイカ (Abraliopsis pacificus)
ホタルイカ属 (Watasenia)
ホタルイカ (Watasenia scintillans)

ホタルイカとホタルイカモドキ

バラエティ番組で「ホタルイカはホタルイカモドキ科」という形で紹介されたことがあります。これは、日本のホタルイカよりも前にホタルイカモドキに近い種が発見され、その種を基準として科が命名されたためです。

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