ホテル宍道湖

ホテル宍道湖

ホテル宍道湖は、かつて島根県松江市に所在した宿泊施設です。豊かな自然に囲まれた宍道湖のほとりに位置していたと推測され、その地名に由来する名称を持っています。施設は1975年5月に開館し、多くの利用者に親しまれていました。

このホテルは、一般的な商業ホテルとはやや性格を異にしていました。その最大の特色は、所有形態と利用目的にあります。施設が立つ土地や建物の大半は島根県の所有であり、県職員が加入している地方職員共済組合の県支部に対し、福利厚生施設として無償で提供されていたのです。これは、島根県で働く職員の皆さんが、日々の業務の疲れを癒やしたり、心身のリフレッシュを図ったりするための保養所のような役割を担っていたことを意味します。

しかしながら、時が経つにつれて施設の建物に問題が顕在化してきました。特に、建設された当時の建築基準法に基づいて建てられた建物が、現在の耐震基準を満たしていないことが判明したのです。現行の厳しい耐震基準に適合させるためには、大規模な補強工事が不可欠であり、これには極めて多額の費用が見込まれることが明らかになりました。島根県は、施設の老朽化に伴う改修費用、とりわけ耐震工事にかかる膨大な費用を考慮した結果、施設の維持・運営を継続することが経済的に困難であると判断するに至りました。

このような状況を踏まえ、島根県はホテル宍道湖の運営を終了する方針を固めました。具体的には、2016年12月末日をもってホテルとしての営業を完全に終了し、その後必要な手続きを経て、翌年の2017年3月末日をもって正式に施設を閉館することが決定され、公にされました。この決定は、施設の安全性確保と財政的な側面から避けられない判断であったと考えられます。

計画通り、ホテル宍道湖は2017年3月末に閉館となりました。しかし、閉館後も建物がすぐに解体されることはありませんでした。少なくとも、その後の2019年時点においても、閉館した状態のまま、建物が敷地に残存していたことが確認されています。これは、閉館後の跡地の利用方法や、既存建物の取り扱いについて、関係者間で継続的に検討や調整が行われていた状況を示唆しています。

そして閉館から約3年が経過した2020年、この旧ホテル宍道湖の将来に関する新たな展開がありました。2020年3月26日に開催された記者会見の場で、当時の松江市長である松浦正敬氏が、島根県が所有していたこの旧ホテル宍道湖の施設およびその敷地を、松江市として購入する意向であることを発表しました。この市長の発言により、かつて県の福利厚生施設であったこの場所が、今後は松江市によって管理・活用されていく方向性が示され、地域の新たな活用の可能性が開かれることとなりました。

かつて島根県の職員向け福利厚生施設として重要な役割を果たしたホテル宍道湖は、施設の老朽化や耐震性の問題を経てその歴史に一旦幕を下ろし、現在は松江市の所有となるなど、その変遷の中で新たな局面を迎えています。

アクセス

公共交通機関を利用する場合、JR山陰本線乃木駅から徒歩でおよそ7分の距離に位置していました。

参考文献

* 島根県包括外部監査人 野津孝義（2013年）『包括外部監査結果報告書』、27～39頁。

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