ホノリウス3世 (ローマ教皇)

ホノリウス3世：十字軍と政治的駆け引きの狭間で生きた教皇

ホノリウス3世（在位1216年-1227年）は、12世紀後半にローマの貴族サヴェッリ家に生まれたチェンツィオ・サヴェッリを名乗る人物です。彼は教会でのキャリアを着実に積み重ね、枢機卿に上り詰める傍ら、後の神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世の家庭教師を務めるなど、政治的にも重要な役割を果たしました。1216年、前任者インノケンティウス3世の死後、コンクラーヴェによって教皇に選出されます。

教皇在位中は、第4ラテラン公会議で決定された十字軍の推進に尽力しました。彼は教会や修道院への課税を行い、財政的基盤を固めつつ、フランス、アラゴン、イングランドなどヨーロッパ諸国の紛争調停にも積極的に介入しました。ラテン帝国皇帝の戴冠やボヘミア教会の権利擁護などを通して、ヨーロッパ政治に大きな影響力を及ぼしました。フリードリヒ2世のローマ王選出には異議を唱えましたが、十字軍計画の継続を優先し、フリードリヒ2世の戴冠を執り行いました。

しかし、ホノリウス3世の熱意にもかかわらず、十字軍の進展は芳しくありませんでした。フリードリヒ2世は十字軍への参加を約束しながらも、その実行を遅らせ続けました。他の諸侯も教皇の呼びかけに応じず、第5回十字軍はダミエッタ占領に終わったものの、内部抗争によって失敗に終わります。

スペインのレコンキスタにも関心を寄せたホノリウス3世は、トレド大司教を特使として派遣し、十字軍を組織させますが、カセレスやレケナの包囲は失敗に終わります。その後、レオン王アルフォンソ9世を支援する方針に転換しますが、こちらも成果を挙げられませんでした。さらに、アルビジョア十字軍への参加をフランス王ルイ8世に要請するなど、多方面にわたって十字軍の推進を試みました。

フリードリヒ2世の十字軍参加を促すため、ホノリウス3世は破門をちらつかせました。これにより、フリードリヒ2世は最終的に第6回十字軍の指揮を執ることを決意しますが、ホノリウス3世はフリードリヒ2世が出陣する前に1227年に死去します。ホノリウス3世の後継者グレゴリウス9世は強硬な姿勢を取り、フリードリヒ2世の十字軍遅延を理由に破門しました。このため、両者の対立は激化し、イタリア政策をめぐる争いが続きました。興味深いことに、後の教皇ホノリウス4世はホノリウス3世の大甥にあたります。

宗教政策においては、ドミニコ会、カルメル会、フランシスコ会の承認、ベギン会の認可など、教会の組織強化に貢献しました。また、『教皇列伝』の増補や書簡集、説教集の編纂、そして教会法の集大成である『第5集令』の作成など、多くの著作を残しています。さらに、セルビア王ステファン・ネマニッチに王冠を授け、セルビア王国の地位を承認したことも特筆すべき功績です。

しかし、ホノリウス3世の生涯には、謎めいた部分も残されています。17世紀以降、『教皇ホノリウスの奥義書』と呼ばれる魔法書が出回り、彼が魔術師だったという噂が広まりました。この噂の真偽は不明ですが、教会に迫害された魔術師の報復説や、テンプル騎士団との関与を疑う説などが存在しています。ホノリウス3世の生涯は、宗教的熱意と政治的駆け引き、そして謎めいた噂が複雑に絡み合った、興味深いものです。

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