ホフマン反射

ホフマン反射 (Hoffmann's reflex)

ホフマン反射は、指に加わる特定の弱い刺激に応答して、母指を含む他の指が反射的に屈曲する現象です。これは生理的な反射としては通常目立たないものであり、この反応が容易に誘発される場合は、深部反射が亢進している状態を示唆します。神経学的検査において、ホフマン反射の陽性所見は、上位運動ニューロン、特に随意運動を制御する錐体路の機能障害を示唆する可能性のある重要な徴候の一つとされています。

ただし、この反射が陽性であったとしても、それだけで直ちに重篤な神経系の病気があると断定することはできません。健康な人でも、特に緊張している場合や、体質的に反射が亢進しやすい人では弱いながらも陽性となることがあるためです。診断においては、この所見を他の神経学的検査の結果や患者の病歴、症状と総合的に判断することが極めて重要です。

検査手技

ホフマン反射の検査は比較的単純な手技で行われますが、正確な刺激と観察が求められます。一般的な手順は以下の通りです。

1. 被験者の準備: 被験者には座位または立位をとってもらい、検査する側の腕をリラックスさせて、前腕を支えるなどして力を抜いた状態にします。
2. 指の保持: 検者は、被験者の手の中指を軽く保持します。通常、検者の示指と中指で、被験者の中指の中節関節と末節関節のあたりを両側から挟むようにして支えます。これにより、刺激を与える指を安定させます。
3. 刺激の付与: 検者は自身の母指を用いて、被験者の中指の爪の先端、あるいはそのすぐ近傍を上から（または下から、好みに応じて）軽く押さえます。
4. 刺激の解除: 次に、検者は押さえていた母指を、素早くかつ鋭く離します。この急な圧迫からの解放、または爪を弾くような動作が、ホフマン反射を誘発するための刺激となります。
5. 反応の観察: 刺激を与えた直後に、被験者の母指や他の指（特に示指）に、不随意な屈曲（曲がる動き）が現れるかどうかを注意深く観察します。陽性反応は、この刺激に対して母指や他の指が明確に屈曲することによって確認されます。

検査結果の意義と注意点

ホフマン反射が陽性であることは、脊髄レベルでの反射弓に対する上位中枢からの抑制が低下している状態を示唆すると考えられています。これは、脳や脊髄の病変によって錐体路などの抑制系経路に障害が生じた場合に起こり得ます。

陽性所見は、片側のみに見られる場合と両側に見られる場合があります。片側性であれば、病変がその側の神経経路に偏っている可能性を示唆し、脳卒中など片側性の病変が疑われます。両側性であれば、脊髄の病変や広範な神経疾患などが考えられます。

しかし、繰り返しになりますが、ホフマン反射の陽性のみで疾患を診断することはできません。正常な人でも緊張や興奮によって反射がやや亢進することがあり、その結果、弱いながらも陽性反応が出ることがあります。特に、健常者における陽性反応は、通常、刺激に対して比較的弱い屈曲であったり、常に安定して誘発されるわけではなかったりします。病的な亢進の場合、多くはより強い反応として現れ、繰り返し誘発されやすい傾向があります。

臨床現場では、ホフマン反射はバビンスキー反射など他の病的反射の有無、腱反射の亢進、筋力低下、感覚異常といった他の神経学的所見と組み合わせて評価されます。これらの所見が複数認められる場合に、中枢神経系の疾患の可能性がより高まります。

ホフマン反射は、簡便ながらも神経系の機能状態を把握する上で有用な検査法の一つとして、神経学的な診察において広く用いられています。

参考文献

* 森秀太郎 編 『鍼灸医学辞典』 医道の日本社、2009年（原著1985年）

（注：本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の医学的アドバイスや診断に代わるものではありません。）

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