ホラシノブ

ホラシノブ（烏韭）

ホラシノブ（Sphenomeris chinensis (L.) Maxon）は、ホングウシダ科ホラシノブ属に分類される常緑性の多年生シダ植物です。日本を含む東アジアの温暖な地域に広く分布し、山野の岩場や斜面、時には人家の石垣など、多様な環境で見られます。

特徴

ホラシノブは、その繊細な葉の形状が特徴です。根茎は短く地を這い、褐色を帯びた鱗片で覆われています。葉は根茎から集まって生え、大きさは様々ですが、大きいものでは60cmにも達します。葉柄は緑色で、基部は褐色を帯び、まばらに鱗片が見られます。葉身は革質でやや厚みがあり、表面は滑らかですが、光沢はあまりありません。色は黄緑色が一般的ですが、冬には赤みを帯びることもあります。

葉は3～4回羽状複葉で、全体の形は楕円形に近い披針形です。根元に近い羽片は短く、その次の羽片が最も長くなる傾向があります。裂片は丸みを帯びた三角形ですが、羽状に裂けることもあります。胞子嚢群は裂片の先端側の縁に沿って横長に形成され、先端側が開いています。

生育環境

ホラシノブは、日当たりの良い場所から、やや湿った場所まで、幅広い環境に適応します。林縁の傾斜地や岩の上、山間部では石垣にも見られます。乾燥した環境では小型のまま生育することもあります。名前の由来は、シノブに似て洞（ほら）に生えることから、「洞忍」と名付けられたとされます。しかし、洞窟に生えるというイメージは必ずしも当てはまりません。

日本では、本州の東北南部以南、四国、九州、琉球諸島、小笠原諸島に分布し、国外ではアフリカからポリネシアまで、熱帯域に広く分布しています。

近似種

ホラシノブ属には、世界の熱帯から亜熱帯にかけて十数種が知られています。日本では、ホラシノブが最も一般的ですが、以下の種も知られています。

ハマホラシノブ (S. biflora (Kauf.) Tagawa): 本州中部以南の海岸近くに生育し、葉がやや厚く、最下の羽片が短いなどの特徴があります。
ヒメホラシノブ (S. gracillis (Tagawa) Kurata): 八重山諸島に固有の小型種です。
コビトホラシノブ (S. minutula Kurata): 奄美大島に固有の小型種です。

また、葉が細かく裂けるシダ植物には、コバノヒノキシダやタチシノブなどがありますが、タチシノブは裂片が細いため区別できます。

参考文献

岩槻邦男編『日本の野生植物　シダ』(1992)平凡社
* 光田重幸『しだの図鑑』(1986)保育社

もう一度検索