ホンダ・ラクーン

ホンダ ラクーン：原動機付自転車と電動アシスト自転車の軌跡

ホンダがかつて製造・販売していた「ラクーン」は、原動機付自転車と電動アシスト自転車の両方のモデルに用いられた名称です。それぞれのモデルは異なる時代背景と技術を反映しており、ホンダの二輪車開発の歴史を語る上で重要な位置を占めています。本稿では、これらのモデルについて詳細に解説します。

1. ラクーン（原動機付自転車）：軽快な走りを目指したレジャーバイク

1980年3月1日に発売された原動機付自転車「ラクーン」は、1979年に発売されたホンダ初の50cc2ストロークスポーツバイク「MB50」をベースに開発されました。開発コンセプトは「市街地を軽快に走るレジャーバイク」。その名の通り、気軽に楽しめる乗り心地を追求したモデルでした。広告では「原宿バイク」というキャッチコピーも用いられ、若者層をターゲットにしたマーケティング戦略が伺えます。

「ラクーン」は、MB50やそのデュアルパーパスタイプであるMT50と多くの部品を共有する姉妹車でもありました。搭載されたエンジンは、MB50のエンジンをベースに中低速トルクを向上させたAD02E型空冷2ストロークエンジンです。最高出力はMB50の7ps/9,000rpmから6ps/7,000rpmへ、最大トルクは0.56kg-m/8,000rpmから0.62kg-m/6,500rpmへと変更され、街乗りでの扱いやすさが重視されました。

車体デザインは、前17インチ・後14インチのスポークホイール、プルバックハンドル、ダウンマフラー、地上高700mmのローシートを採用したアメリカンスタイル。ステップ位置もMB50に比べて前方に移動しており、5段マニュアルトランスミッションのシフト操作もリンケージ式に変更するなど、快適性と操作性を両立させていました。角型ヘッドライトとX字型バックボーンフレームも特徴的なデザイン要素です。

しかし、1982年にMB50とMT50が水冷エンジン搭載モデルへとモデルチェンジしたことに伴い、「ラクーン」は生産中止となりました。短期間の販売でしたが、そのスタイリッシュなデザインと扱いやすい走りは、多くのユーザーに愛されたモデルとなりました。

2. ラクーン（電動アシスト自転車）：日常生活をアシストする実用モデル

1995年2月2日に発売された電動アシスト自転車「ラクーン」は、原動機付自転車とは全く異なるコンセプトで開発されました。これは、日常生活における自転車利用の利便性を高めることを目的としたモデルでした。発進時、上り坂、荷物積載時、向かい風時など、ペダルへの踏力が大きくなる状況を電子制御機構が検知し、モーターアシストによってペダル踏力を約半分に軽減する仕組みでした。アシストは0～15km/hの範囲で動作し、24km/hになると停止するよう設計されていました。

車体にはアルミニウム製パーツを多用し、電動アシスト機能を持たない通常の自転車と同等の軽量化を実現。U字型フレーム、26インチホイールを採用しました。ハンドルは、オールラウンダー型とアップハンドル型の2種類が用意されました。バッテリーは、過充電防止機能付きニッカド電池を搭載し、車体から取り外して充電できる構造となっていました。

発売後も「ラクーン」は継続的に改良が加えられました。24インチ、20インチモデルの追加、バッテリー残量表示ランプの装備、マウンテンバイクスタイルの「ラクーンCX」の登場など、ユーザーニーズに対応したモデルバリエーションが展開されました。フルモデルチェンジや価格改定、折りたたみ式モデルの追加など、市場の変化に対応しながら進化を遂げて行きました。しかし、2002年には生産終了となり、ホンダの電動アシスト自転車の歴史に幕を閉じました。

結論

「ラクーン」は、原動機付自転車と電動アシスト自転車という異なるカテゴリーのモデルに用いられた名称ですが、それぞれの時代を反映した特徴的なモデルでした。原動機付自転車はスタイリッシュなデザインと軽快な走りを追求し、電動アシスト自転車は実用性を重視した設計がなされました。これらのモデルは、ホンダの二輪車開発の歴史において、重要な役割を果たしたと言えるでしょう。

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