ホンダ・CG125

ホンダCG125：世界を駆け抜けた、堅牢なロングセラーバイク

ホンダCG125は、1975年から製造販売されている、本田技研工業の自動二輪車です。東南アジアを始め、世界中で広く普及し、途上国ではデファクトスタンダードとなるほどの成功を収めました。その背景には、徹底的な現地調査に基づいた開発と、長きにわたる改良の歴史があります。

開発の経緯：過酷な環境から生まれた信頼性

1970年代、東南アジア経済の発展に伴い、二輪車需要は急増しました。しかし、ホンダは他社に比べ苦戦していました。その原因を究明するため、稲垣剛史氏と宮智英之助氏ら開発チームは、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、イラン、パキスタンへ派遣されました。

現地調査で明らかになったのは、西欧や日本とは比べ物にならないほど過酷な使用状況でした。3～4人乗りは当たり前、子供をタンクに乗せたり、家畜や荷物を積載したり、リアカーを牽引するなど、想像をはるかに超える使われ方をされていました。整備環境も劣悪で、エアクリーナーは破損したまま使用され、ドライブチェーンは限界まで伸び切った状態でも交換されずに使われていました。

当時、他社は整備容易な2ストロークエンジン車を提供していましたが、ホンダはあえて整備が難しいとされていた4ストロークOHCエンジン搭載車を投入していました。しかし、現地ではその扱いにくさが仇となり、欠点ばかりが目立つ結果に終わりました。この経験から、開発チームは「実用的で耐久性があり、メンテナンスフリーに近いエンジンを搭載したバイク」の開発を目指しました。

開発：耐久性とメンテナンス性の両立

帰国後、開発チームは久米是志氏と共に、軽量ショートプッシュロッドOHV直立単気筒エンジンの開発に着手しました。OHVエンジンは耐久性に優れ、軽量・コンパクトなプッシュロッドを採用することで、高性能とメンテナンス性の両立を目指しました。さらに、OHCエンジンとの混流生産を可能とする設計も取り入れられました。

1974年3月、発展途上国向け専用モデルの開発が本格化しました。開発目標は、燃費と耐久性に優れた4ストロークOHVエンジン（110ccと125cc）、スポーティなデザイン、そして何よりも高い実用性とメンテナンス性でした。

エアクリーナーには、洗って再利用可能な発泡ウレタン製を採用。二重構造と湿式にすることで、微塵の侵入を防ぎ、エンジンの磨耗を最小限に抑えました。ドライブチェーンは長寿命化され、エンクロージャで保護することで異物付着を防ぎました。また、ダイヤモンドフレームを採用し、エンジンを強度部材として活用することで、過積載にも耐えられる高い剛性を確保しました。

1974年12月にはタイで走行試験を実施。酷暑、過積載、現地ガソリン使用など、あらゆる状況下でのテストが繰り返されました。

発売と世界展開：デファクトスタンダードへの道

こうして開発されたCG110とCG125は、1975年に鈴鹿製作所で生産開始、3月にタイで発売されました。現地事情に合わせた設計が功を奏し、高い評価を得て、東南アジアのみならず、中近東やアフリカにも輸出が拡大されました。1976年にはブラジルでも生産が開始され、生産量は飛躍的に増加しました。

特に途上国ではデファクトスタンダードとなり、多くの国で現地生産が行われ、様々な改良が加えられていきました。基本設計はほぼ変わらず、OHVエンジンを維持しながらも、電子制御点火方式や電子制御燃料噴射装置の採用、排出ガス規制への対応など、時代に合わせて改良が重ねられました。その頑丈さから、UNICEFの供給機材に採用されたり、タリバンが機動部隊に利用するなど、様々な場面で使用されました。

各国での展開と改良：多様な仕様と進化

CG125は、世界各国で生産・販売され、地域や時代のニーズに合わせて様々な改良が加えられました。日本国内での生産は1998年に終了しましたが、海外では現在も生産が続けられています。ここでは、主な国での展開と改良について触れます。

タイ: 1975年に世界で初めて販売開始。
インドネシア: 1975年からノックダウン生産開始。
イラン: 1978年から販売開始。
パキスタン: 1976年に販売開始、1992年から現地生産開始。様々な改良モデルが発売され続けています。
ブラジル: 1976年から生産開始。国民的英雄ペレを起用した広告キャンペーンも成功し、市場シェアを大きく伸ばしました。複数の世代を経て改良が続けられましたが、2018年に生産終了。
中国: 1985年から技術提携による生産開始。多くの模造車を生む結果にもなりましたが、ホンダは模倣メーカーへの対抗策も講じました。複数のメーカーが独自に改良モデルを発売しています。
メキシコ: ブラジルモデルをベースにした改良モデルが販売されています。
ナイジェリア: メキシコモデルと同仕様のモデルを生産。
韓国: 起亜技研工業が生産。
台湾: 光陽工業が生産。
トルコ: 合弁会社が生産。
イギリス: 日本製、ブラジル製、トルコ製など、複数の地域からの輸入がありました。
フランス: フランス郵政が採用。
アルゼンチン: ブラジルモデルをベースにしたモデルが販売。

CG125は、単なるバイクではなく、世界各国の文化や歴史と深く関わってきた一台です。その堅牢性と信頼性は、これからも世界中で評価され続けるでしょう。

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