ホンダ・FTR

本田技研工業FTRシリーズ：フラットトラックレーサーの魂を受け継ぐオートバイ

本田技研工業は、1986年と2000年に、フラットトラックレースからインスピレーションを得たオートバイ、FTRシリーズを発売しました。FTRとは、フラットトラックレーサー(Flat Track Racer)の頭文字に由来しています。本稿では、FTR250とFTR（FTR223）の開発背景、デザイン、性能、歴史について詳細に解説します。

FTR250：レーサーレプリカブームの中で独自性を追求

1986年2月25日に発売されたFTR250（型式名：MD17）は、249ccの空冷4ストロークSOHC単気筒エンジンを搭載したモデルです。同社は、1982年にFT400・500を発売していましたが、フラットトラックレースが日本ではまだ知られておらず、販売は低迷していました。しかし、アメリカで1984年と1985年にメーカー・ライダーチャンピオンを獲得したことで、フラットトラックレーサーの技術を活かした公道走行可能なモデルとしてFTR250が開発されました。

軽量・低重心・スリムな車体は、フラットトラックレーサーの特徴を踏襲。応答性の良いシンプルなエンジンと相まって、軽快な走りを提供しました。しかし、当時流行していたレーサーレプリカとは異なるスタイルのため、市場に受け入れられず、1989年には生産中止となりました。

FTR250の技術的特徴:

車体: 低重心、短いホイールベース、低いシート高、大きなハンドル切れ角、幅広タイヤを採用。フレームはダブルクレードル構造で軽量化が図られています。しかし、薄肉構造のため、経年劣化によるフレームのクラックなどが発生しやすいという課題がありました。
エンジン: XLR250R用のMD16E型エンジンをベースに改良。ストロークを延長し、中低速域のレスポンス向上と高回転域での出力特性を両立。セルフスターター式とキックスターター式の両方が用意されました。
デザイン: 大きな角形ヘッドランプとゼッケンプレート風のサイドカバーが特徴的でした。しかし、このデザインが販売低迷の一因になったとされています。

FTR（FTR223）：カスタムベースとしての新たな魅力

1990年代後半からオフロードバイクのカスタムが流行し、FTR250の中古車市場も活況を呈しました。こうした状況を背景に、2000年9月8日にFTR（型式名：BA-MC34）、通称FTR223が発売されました。これは、街乗り用のカスタムベースとして人気を博していたヤマハTW200に対抗するモデルとして開発されたものです。

FTR250を踏襲したスタイルはそのままに、ストリートでの扱いやすさを重視した設計がなされました。コストを抑えるため、後輪ブレーキはドラム式となり、エンジンは、バイアルスTL125をベースに排気量を拡大した223ccのMD33E型エンジンが搭載されました。このエンジンは、SL230にも搭載され、高い信頼性を誇ります。フレームは、FTR250のダブルクレードルからセミダブルクレードルに変更され、軽快なハンドリングを実現しました。

FTR223の特徴:

コストパフォーマンス: TW200に対抗するため、車両価格を抑えることが重視されました。
扱いやすさ: ストリートでの使いやすさを重視した設計。
カスタムベース: 多様なカスタマイズに対応できる素地となっています。
* 信頼性の高いエンジン: 既存のエンジンを改良・流用することで、コストと信頼性の両立を図りました。

FTRシリーズの系譜と進化

FTR223は、発売後も継続的に改良が加えられ、カラーバリエーションの追加や、限定車FTR223Dの発売などが行われました。2007年には、排出ガス規制に対応したマイナーチェンジが行われ、エンジン出力も変更されました。2016年には生産が終了しました。

FTR250とFTR223は、それぞれ異なる時代背景の中で誕生し、独自の進化を遂げました。しかし、両モデルに共通するのは、フラットトラックレーサーの精神を受け継ぐ、個性あふれるオートバイであるということです。そのデザイン、性能、歴史は、多くのライダーに愛され、今も語り継がれています。

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