ホンダ・RA270

ホンダ・RA270の概要

ホンダ・RA270は、ホンダが1964年に開発したフォーミュラ1カーの試作車であり、同社にとって初めてのF1参戦マシンとなります。ホンダはもともと二輪車レースで成功を収めており、その技術を活かしてエンジンを開発し、F1世界選手権への挑戦を決定しました。具体的には、1962年8月からはじめたRA270Eエンジンの開発が、その第一歩でした。

このエンジンのテストが進む中、当初はクーパー・T53に搭載する計画でしたが、その設計の制約があったため、ホンダは新たにRA270を開発することにしました。このプロトタイプは、1963年の暮れまでに完成し、設計を担当したのは馬場利次です。ホンダのエンジニアたちは、最高速度270km/hを目指すという意気込みを込めて「RA270」という名称をつけました。

構造とデザイン

RA270のシャーシは、モノコック構造ではなく、パイプフレーム式であるため、当時の他のフォーミュラ1車両とは異なった特徴があります。これは、エンジンの完成を優先するための選択でした。また、RA270には12本のエキゾーストパイプが装備されていますが、これは後により効率的な集合式に改良されています。

外観は金色に塗装されていましたが、これはホンダの創業者である本田宗一郎が好んでいた色で、初めはボディに金箔を貼ることも検討されていたそうです。走行性能と美しさを兼ね備えたRA270は、ホンダがF1界における地位を確立するための重要なマシンとなりました。

テスト走行と契約の変化

RA270は、荒川テストコースでのシェイクダウンの後、鈴鹿サーキットでの実走行テストが行われました。このテストには、元F1王者のジャック・ブラバムも参加し、技術的な評価が極めて重要なものとなりました。テストドライバーとしては、高橋国光と古我信生が鈴鹿サーキットでのシェイクダウンに関与しています。

当初、RA270Eエンジンはチーム・ロータスへの独占供給が予定されていましたが、1964年1月に契約が解消され、ホンダは自らの参戦を決定。これにより、次のモデルであるRA271の開発へと移行しました。

残念ながら、RA270はテスト後に破棄され、現存する車両はありません。しかし、1964年2月に行われた鈴鹿サーキットでのシェイクダウンの映像が、2013年に埼玉県の本田技術研究所で発見され、2015年には報道陣に公開されました。この史実は、ホンダの四輪全体の開発責任者である中村良夫自らがドライバーを務めている貴重な記録としても知られています。

まとめ

ホンダ・RA270は、ホンダがフォーミュラ1の舞台に立つための重要な試作車であり、その開発過程は技術者たちの情熱と日本のモータースポーツの歴史を刻むものでした。未だに存在しないこの車両が、ホンダのF1参戦の基礎を築いたことは評価に値します。

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