ホーボーケン番号

ホーボーケン番号（Hoboken-Verzeichnis）は、オーストリアの作曲家フランツ・ヨーゼフ・ハイドンの楽曲を体系的に識別するために用いられる整理番号です。この番号体系は、オランダ出身の著名な音楽学者、アントニー・ヴァン・ホーボーケンが長年の研究に基づいて編纂した詳細な作品目録「ヨーゼフ・ハイドン主題書誌学的作品目録（Josef Haydn, Thematisch-bibliographisches Werkverzeichnis）」に準拠して定められています。

この記念碑的な作品目録は、複数巻構成で順次刊行されました。まず器楽編が1957年に、続いて声楽編が1971年に出版され、最後に第3巻が1978年に世に出ています。これらの巻は、ハイドンの生涯にわたる膨大な創作活動の成果を網羅しており、その後のハイドン研究や演奏実践における基盤となりました。

フランツ・ヨーゼフ・ハイドンの楽曲には、作曲年代順などに付された作品番号（Op.）が存在するものもありますが、多くの作品、特に初期や中期のものには正式な作品番号が定められていません。このような状況において、特定のハイドン作品を正確に参照し、識別するために、このホーボーケン番号が現代では最も標準的かつ広く用いられる方法となっています。もちろん、弦楽四重奏曲のように、伝統的に作品番号による呼称が頻繁に行われるジャンルも存在しますが、研究や目録においてはホーボーケン番号による整理が一般的です。

ホーボーケン目録に収録された作品群は、ハイドン自身の真作として確証されているものだけでなく、かつてハイドンの作と信じられていたものの、その後の音楽学的な検証により別人の作品と判明した楽曲も含まれています。これは、目録が編纂された時点での伝承や学説を反映しているためです。また、ホーボーケン番号の付番体系は、目録作成以前に存在していた様々なハイドン作品に関するカタログや、最初期の全集などに用いられていた番号付けの慣習を多く引き継いでいるという歴史的な背景を持っています。

この作品番号は、通常「Hob.」という略称で表記されます。表記の例としては、最も有名な交響曲の一つである交響曲第94番は、「Hob. I-94」と記述されます。この形式からも見て取れるように、ホーボーケン番号は、J.S.バッハの作品目録番号であるBWV（Bach-Werke-Verzeichnis）と同様に、楽曲のジャンルによって分類・付番されています。しかし、BWVがバッハの全作品を通じて一連の通し番号が振られているのに対し、ホーボーケン番号は各ジャンル（アルファベットのローマ数字で示される）の中で、それぞれ独立して1番から番号が割り振られている点が大きな特徴です。例えば、「I」は交響曲、「III」は弦楽四重奏曲といったジャンル区分に対応しています。

結論として、ホーボーケン番号は、フランツ・ヨーゼフ・ハイドンの多様かつ膨大な作品世界を理解し、研究し、演奏し、楽しむ上で、現代の音楽界においては不可欠なツールとしてその地位を確立しています。この番号体系のおかげで、ハイドンの楽曲へのアクセスと議論が格段に容易になりました。

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