ホールファグレ朝

ホールファグレ朝：ノルウェー王国の黎明と系譜の謎

ホールファグレ朝は、ノルウェー王国を創始したとされるハーラル1世（美髪王）に始まる王朝です。伝統的には、9世紀後半から1387年までノルウェーを支配したとされてきましたが、現代の研究では、その歴史的実態は複雑で、多くの謎に包まれていることが明らかになっています。

王朝の起源と伝統的な解釈

伝統的な解釈では、ハーラル1世は872年のハフルスフィヨルドの戦いで勝利し、ノルウェーを統一した最初の王とされています。彼の後継者たちは、13世紀に成文化された王位継承法に基づいて、王権を継承していきました。スカンディナヴィアの他の君主国やアングロサクソン朝イングランドとは異なり、ノルウェーは選挙制君主制ではなかったとされています。

しかし、ハーラル1世の死後、ノルウェーは王ではなく、北部ラーデのヤール（侯）に支配された時代もありました。また、ハーラル1世の王国は、その死後、息子たちの間で分割されました。一部の歴史家は、1015年に即位したオーラヴ2世（聖オーラヴ）こそが、ノルウェー全土を最初に支配した王であると主張しています。さらに、ハーラル3世以前には、ホールファグレ朝の支配がノルウェー全土に及んでいなかったという指摘もあります。

現代的な視点：王朝の創作と系譜の改竄

現代の研究では、ホールファグレ朝は、少なくとも部分的には中世に創作されたものと見なされています。その動機の一つは、支配者たちに王国の創始者に遡る明確な王家の祖先を与えることで正当性を高めることにありました。また、王家に血筋を繋げることで、その他の人々に由緒正しい血筋を提供することも目的の一つでした。

アイスランドのサガや歴史書には、ホールファグレ朝の系譜に関する様々な伝承が残されていますが、それらの多くは、歴史的事実というよりは、政治的・社会的な目的のために作られたと考えられています。例えば、アイスランドの首長たちのルーツを確立するために、王朝の起源をヴェストフォルからスウェーデンのユングリング家に繋げたという説や、オスロ周辺地域の支配権を確立するために系譜が改竄されたという説があります。

歴史家のジョーン・タービル＝ピーターは、ハーラル3世の祖先に関する系譜の改竄は、彼が即位してから200年後にアイスランド人によって行われた可能性を指摘しています。また、クロー・クラグは、オスロ周辺地域に対する世襲の請求権を確立することが、系譜創作の重要な動機であったと述べています。

王朝の人物とその末裔たち

ホールファグレ朝は、以下のような人物たちによって構成されています。

ハーラル1世（美髪王）: ホールファグレ朝の創始者。
エイリーク1世（血斧王）: ハーラル1世の息子。
ホーコン1世（善王）: ハーラル1世の息子。
ハーラル2世（灰衣王）: エイリーク1世の息子。
オーラヴ1世トリグヴァソン: ヴァイキングの王。
オーラヴ2世（聖オーラヴ）: 強力な王。
ハーラル3世（苛烈王）: オーラヴ2世の異母弟。
マグヌス1世（善王）: オーラヴ2世の甥。
その他多くの王たち：この王朝の後継者、または自称後継者たち。

オーラヴ2世の死後、ノルウェー王位はハーラル3世に移り、彼の後継者たちは「シュル朝」を創始しました。さらに、ハーラル3世の後には、「ギーレ朝」や「スヴェレ朝」などの分家が登場しました。これらの王朝は、王位を争い、ノルウェーの歴史に大きな影響を与えました。

ホールファグレ朝の系譜に関する問題点

ホールファグレ朝の系譜には、以下のような問題点が指摘されています。

オーラヴ1世とオーラヴ2世はハーラル1世の子孫なのか？
ハーラル3世はハーラル1世の子孫なのか？
ハーラル4世はマグヌス3世の息子なのか？
スヴェレはシグル2世の息子なのか？
ホーコン4世はホーコン3世の息子なのか？

これらの疑問は、ホールファグレ朝の系譜が、後世に創作されたものである可能性を示唆しています。特に、王位を勝ち取った最後の3人は、隠された王の私生児であると主張していました。

ホールファグレ朝の末裔たち

ホールファグレ朝の系譜は、数々の疑問や改竄の可能性を含んでいますが、その末裔たちは、現代まで血脈を繋いでいます。

スウェーデンのエリク朝: マグヌス3世の娘であるラグンヒルを介して血脈を繋いでいます。
スカンディナヴィアの貴族とヨーロッパ王室: ハーラル4世の娘であるブリギダを介して血脈を繋いでいます。
ノルウェー王室: ホーコン4世を介して血脈を繋いでいます。
オークニー伯とザクセン大公: オーラヴ2世の庶出の孫娘と正嫡の娘であるウルヴヒルを介して血脈を繋いでいます。

まとめ

ホールファグレ朝は、ノルウェーの歴史において重要な役割を果たした王朝ですが、その系譜は複雑で、多くの謎に包まれています。中世の歴史家や詩人によって創作された可能性も指摘されており、歴史的事実と伝説が入り混じった、非常に興味深い王朝といえるでしょう。

参考資料

クラウス・クラグ著「Norges historie fram til 1319」
ラーズ・ロベリ著「Norwegian Kings and Vikings: Do They Belong in Your Family Tree?」

関連項目

ユングリング家
ノルウェー君主一覧
デンマーク君主一覧
スコットランド君主一覧

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