ボグ・バター

ボグ・バター、あるいはbutyrelliteとは、主にブリテン島とアイルランド島で見られる、泥炭地から発掘される古代の蝋状の遺物を指します。アイルランドとスコットランドを中心に数百例が確認されており、その存在は古くから知られていました。

現代のバターは脂肪分が80～88%程度であるのに対し、ボグ・バターは95～99%が脂肪分で構成されており、まるで石鹸のような質感を持っています。興味深いことに、分析の結果、乳製品ではなく動物性脂肪から作られたものも含まれていることが判明しました。

発掘されたボグ・バターの多くは木製の容器に収められていますが、家畜の膀胱や皮革、樹皮などに包まれていることもあります。容器の種類も様々で、バケツ、樽、バターチャーンなどが確認されています。

起源と目的

ボグ・バターが泥炭地に埋められた目的は、未だ解明されていません。しかし、様々な仮説が提唱されており、その背景には当時の人々の生活や文化が深く関わっていると考えられています。

歴史的分析

放射性炭素年代測定により、ボグ・バターのおおよその製造時期を推定することができます。スコットランドでは2～3世紀に遡る例がある一方、アイルランドでは約5000年前のものと考えられるボグ・バターが発見されています。アイルランドにおいては鉄器時代のものが多く、この時代にボグ・バターを埋める習慣が盛んに行われていたと考えられています。

目的の考察

ボグ・バターが埋蔵された目的については、以下の様な説があります。

宗教的儀式: 泥炭地にバターを捧げる習慣があったことから、ボグ・バターの埋蔵も宗教的な儀式の一環であった可能性があります。鉄器時代には金属製品が泥炭地に捧げられることもあり、ボグ・バターも同様の目的で埋められたのかもしれません。
食料の保存・備蓄: 泥炭地は低温で酸素が少なく、酸性の土壌であるため、食品の保存に適した環境です。飢饉や家畜の伝染病が頻発した時代において、貴重な食料資源を保存するための手段として、ボグ・バターが利用されたと考えられます。
風味の熟成: 世界各地には、食品を埋蔵して保存し、熟成や発酵によって独特の風味を加える調理技法が存在します。ボグ・バターの埋蔵も、味を高めることを目的としていた可能性があります。実際に、泥炭地に埋蔵したバターは周囲の香りを吸収し、独特の風味を持つようになるという実験結果も報告されています。
盗難防止: 中世前期のアイルランドでは、バターは高級品であり、人々の社会経済的地位に応じて消費できる量が定められていました。そのため、盗賊や侵略者から食料を守るために、バターを隠したという説も考えられます。

ボグ・バターは、単なる食料としてだけでなく、税金や貸借料の支払い、歓待、病人の介護、社会的な絆の強化など、様々な用途に用いられていました。その埋蔵には、当時の社会や文化、人々の価値観が反映されていると言えるでしょう。謎に包まれたボグ・バターは、古代の人々の生活を垣間見ることができる貴重な遺物なのです。

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