ボビンレース
ボビンレース：糸の宝石と称される繊細な織りの技法
ボビンレースは、繊細で美しいレースを織り上げる高度な技術です。糸をボビンと呼ばれる糸巻きに巻き付け、ピンで固定した型紙の上で、ボビンを巧みに操りながら模様を織り上げていきます。平織り、綾織り、重ね綾織りの技法を組み合わせることで、幾何学模様や植物モチーフ、そして複雑なデザインまで表現可能です。
ボビンレースの種類
ボビンレースには、技法やデザインによって様々な種類があります。代表的なものをいくつか紹介します。
連続糸レース
- - トーションレース: ボビンレースの代名詞的存在。幾何学模様や繰り返し模様が多く、初心者にも取り組みやすいデザインが多いです。世界中に広まっている技法で、バンシュレースやフランドルレースなど、地域独特の特徴を持つレースも含まれます。
- - チュールレース: チュール地に太い糸や特徴的な地模様を施したレース。アンティークレースではニードルレースと並び重要な位置を占めています。デンマークのトュナー、イギリスのバックポイントなど、地域によって様々な技法が発展しました。
切断糸レース
その他
- - ロシアンレース: テープ状の糸を繋ぎ合わせて織るレース。太目の糸を使用し、少ないボビンで大きな作品を仕上げることができます。ヴォログダレースが有名です。
- - ギュピアレース: 模様と模様の間に網目などの地模様がないレース。クリュニーレースの一部やデンマークのクリスチャン4世のレースなどが有名です。
- - モダンレース: 現代のボビンレース研究家によって創作されたレース。様々な技法を駆使し、独創的な作品が生まれています。
ボビンレースの歴史
ボビンレースの歴史は古く、2世紀から3世紀頃のエジプトのコプト遺跡からも、糸を巻いたボビンとレースらしきものが発見されています。中世ヨーロッパでは、当初は装飾的なレースではなく、縁飾りや生地を繋ぐ紐として用いられていました。16世紀になると、イタリアのヴェネツィアとフランドルのアントウェルペンで装飾品としてのボビンレースが発展し、印刷技術の発達と共にヨーロッパ各地へと広がっていきました。
16世紀から18世紀にかけて、フランドル地方を中心にレース産業が発展。バロック時代やロココ時代の様式を取り入れたデザインが流行し、ブリュッセルレース、ブルージュレース、ヴァランシエンヌレースなど、様々な地方独特のレースが誕生しました。特に、ブリュッセルレースはピエス・ラポルテという技法で高く評価され、クラヴァットなどの装飾に多く用いられました。
19世紀に入ると、機械チュールの発達によりアップリケ技法が登場。ボビンレースで作ったモチーフを機械レースの生地に付けることで、効率的な生産が可能となりました。ジャガード機構の導入やケミカルレースの開発により、ボビンレースを模倣した機械レースが大量生産されるようになり、ボビンレース産業は衰退していきました。
しかし、手工的なボビンレースは芸術品として高く評価され続け、現代でもアンティークレースや創作レースとして愛好されています。
ボビンレースが伝承された地域
ボビンレースの伝統は、イタリア、スペイン、ポルトガル、ベルギー、フランス、デンマーク、フィンランド、イギリス、マルタ、ハンガリー、チェコ、ギリシャ、オランダ、スロベニア、ロシアなど、ヨーロッパ各地に残っています。それぞれの地域で独自の技法やデザインが発展し、多様なボビンレースが生まれています。
参考文献
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