ボロ指向

ボロ指向：ニュージャージー州の自治体乱立の歴史

1890年代、アメリカ合衆国ニュージャージー州で「ボロ」と呼ばれる小さな自治体が異常なほど大量に作られました。この現象は「ボロ指向」と呼ばれ、同州の政治地図に大きな影響を与えました。

ボロ指向の背景

19世紀後半、ニュージャージー州は大きな「タウンシップ」に分割され、その中に小さな町が点在していました。鉄道網の発達により、ニューヨークやフィラデルフィアへの通勤者が増加し、彼らはより良い行政サービスを求めるようになりました。一方、伝統的な農村部の住民は税金の上昇を恐れ、両者の間で対立が生まれました。

州法では、住民投票によってタウンシップから独立したボロを形成することが可能でしたが、ほとんど利用されていませんでした。しかし、1893年に通勤者を支持基盤とする共和党が州議会で多数派を占めると、状況は一変します。

ボロ指向の加速

1894年、共和党主導の州議会は、複数のタウンシップの一部を合わせてボロを形成することを認める法律を成立させました。さらに、教育学区を統合する法律も同時に成立したことで、不満を持つ地域社会が分離してボロを形成することが容易になりました。ボロになることで、郡政委員会に代表を送り込み、地方の学校教育を支配し続けることが可能になったからです。

1894年から1895年にかけて、40もの新しいボロが誕生し、その大半がバーゲン郡に集中しました。タウンシップは細分化され、その規模を大きく縮小させました。

州議会の対応とその後

自治体の過剰な増加を問題視した州議会は、1895年に郡政委員を選ぶ権利を停止し、翌年には住民投票によるボロの形成を禁止しました。しかし、20世紀に入っても議会が個別に自治体を形成する動きは続きました。

近年では、政府の費用を削減するために自治体を統合する動きもありますが、その効果は限定的です。

ボロ指向の遺産

ボロ指向は、ニュージャージー州の自治体構造に複雑な遺産を残しました。バーゲン郡では、タウンシップがほとんど消滅し、代わりに多数の小さなボロが割拠する状態が続いています。この背景には、鉄道の発達、ベッドタウン化、住民の自治意識の高まり、そして州議会の改革がありました。

ニュージャージー州の自治体数は、人口当たりで他のどの州よりも多く、その背景にはボロ指向の歴史があると言えるでしょう。自治体統合の試みは進んでいますが、自治意識の強い住民の抵抗に遭い、大きな進展は見られていません。ボロ指向は、現代のニュージャージー州の自治体構造を理解する上で欠かせない歴史的背景となっています。

ボロ指向の背景：詳細

タウンシップ制度の限界: 19世紀のニュージャージー州は、大きなタウンシップの中に小さな町が点在する構造でした。タウンシップは税金が低く、政府の規模も小さいという特徴がありました。しかし、鉄道の発達により、通勤者が増加し、彼らはより質の高い行政サービスを求めるようになりました。従来のタウンシップ制度では、住民の多様なニーズに対応しきれなくなっていました。
教育問題の深刻化: 教育学区の境界線はタウンシップの境界線とは異なり、各学校が独自の教育学区を形成していました。その結果、タウンシップ内に多数の教育学区が存在し、教育資源の偏りが生じていました。鉄道沿線に住む通勤者は、質の高い学校を求めるようになり、教育問題は住民間の対立を激化させる要因となりました。
* 州法の改正: 1875年以降、自治体の創設や修正は州議会の特別法ではなく、住民投票によって決定されるようになりました。1878年には、タウンシップから分離してボロとなるための条件を定めた「ボロ法」が成立しました。1893年には、共和党が州議会で多数派を占め、ボロの形成を促進する法律が次々と成立しました。これらの州法の改正が、ボロ指向を加速させる大きな要因となりました。

ボロ指向の光と影

ボロ指向は、住民の自治意識を高め、地域に密着した行政サービスを提供するというメリットをもたらしました。しかし、一方で、自治体の過剰な増加は行政コストの増大や資源の分散を招き、地域全体の発展を阻害するというデメリットも生じさせました。

ニュージャージー州の自治体構造は、ボロ指向という歴史的な経緯を経て、複雑な様相を呈しています。自治体統合の試みは続いていますが、住民の自治意識の高さや地域間の利害対立など、多くの課題が残されています。

ボロ指向は、ニュージャージー州の自治体構造を理解する上で欠かせない歴史的背景であり、今後の自治体改革の方向性を考える上で重要な示唆を与えてくれるでしょう。

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