ポスト構造主義

ポスト構造主義

ポスト構造主義とは、1960年代後半から1970年代にかけてフランスで誕生した思想運動の総称です。この用語は主にアメリカの学界で使われ、フランスではあまり普及していませんでした。ポスト構造主義は「反」構造主義ではなく、「〜の後に」の意味で解釈されるべきです。しかし、ポスト構造主義の具体的な定義や統一した理論を示す文書は存在しません。その代わりに、ポスト構造主義者たちは古典的な概念、たとえば隠喩や合理性に対する批判など、共通のアプローチを持っています。この思想は、全体主義や父権主義、自民族中心主義、さらには啓蒙思想に対して反発するものであり、構造主義やポストモダンとの関連性を持ちつつ、現象学の影響も学んでいます。これに対して、一部の批評家はポスト構造主義者を「ポスト現象学者」と呼ぶべきであると主張しています。

代表的な思想家には、ミシェル・フーコーやジャック・デリダ、ジャン＝フランソワ・リオタール、フリードリヒ・キットラー、ペーター・スローターダイクなどがいますが、これらの思想家の中で自らをポスト構造主義者として定義している者はいません。

言語とイデオロギー

ポスト構造主義は言語の本質に着目し、言語が万能ではなく、共通のシニフィアンを再利用することでコミュニケーションが可能であることを示します。これにより、言語構造を破壊することでイデオロギーは意味を喪失する可能性が生まれます。ポスト構造主義は、政治的な問題や宗教的な信念、物語といった形而上学的存在が保証されていないということに注目し、これらの概念が言語に従属していることを指摘します。

主張や信念を強く持つ場合、反対の概念が存在しないと言い切ることは難しく、言語を使用する限り、正しい命題は常に反命題によってのみ成り立つわけではありません。たとえば、「彼女は性差によって差別された」という主張に対し、反対の見解が提示されることもあります。ポスト構造主義者は、相手の論理的矛盾を突くことで批評を行うのではなく、主体を解体し、問題の周囲に存在する意味を探ることで、新たな視点を提供しようとします。

成り立ちと背景

この思想は、1968年のフランスの学生運動や労働者のストライキといった政治的背景を持ちます。特に、この年の5月に発生したストライキは、フランス政府に対する大規模な反体制運動を引き起こしましたが、保守勢力はこれを押さえ込みました。このような状況から、フランスの知識人は従来のマルクス主義に対する失望感を抱くようになり、デリダ等の思想はこの土壌の上に芽吹くこととなりました。

また、構造主義は人間やイデオロギーの客観的な構造を追求するものでしたが、ポスト構造主義者はその限界を知らしめ、脱構築を通じてこの構造の欠陥を浮き彫りにしています。

文芸評論への影響

ポスト構造主義の影響は文学にも及び、これまで大切にされてきた理想の読者像を否定します。この新しい視点では、優れた読者が作者の意図を客観的に理解するのは不可能であるとされ、作品の意味は必ずしも作者によって決定されるものではありません。バルトは、さまざまな意味を持つテキストの側面から、作者の意図を超えた解釈の重要性を強調しました。

ポストモダンとの違い

ポスト構造主義はポストモダンと密接な関係にありますが、明確な違いを見いだすことは難しいです。リオタールが『ポストモダンの条件』を発表したことで、ポスト構造主義がポストモダンとされていますが、これはあくまで他者によって名付けられたものであり、コンセプトとしての一貫性を欠いているのが現状です。

ポスト構造主義は、言語や意味に対する新たな理解を提供し、私たち自身が現実をどのように知覚し、表現するかについての深い示唆に富んでいます。

もう一度検索