ポルシェ・597

ポルシェ597「ヤークトヴァーゲン」：幻の軍用車両

第二次世界大戦後のドイツにおいて、ジープやキューベルワーゲン、ランドローバーといった軍用小型車両と同等の役割を担う車の開発が求められていました。この需要に応えるべく、名門ポルシェが設計・開発したのが、ポルシェ597「ヤークトヴァーゲン」（Jagdwagen、狩猟用車両を意味する）です。しかし、この車両は試作段階のみに終わってしまい、量産には至りませんでした。その理由と詳細なスペック、そして、この車に秘められた物語を紹介します。

開発の経緯と生産中止

ポルシェ597は、当初、ドイツ連邦軍への採用を目指した試作車でした。同時期には、他のメーカーも同様の車両を開発しており、激しい競争が繰り広げられていました。しかし、最終的に採用されたのはDKWムンガでした。その大きな理由は、ポルシェ597の高すぎる製造コストでした。軍は、より低価格で大量生産可能な車両を求めていたため、コストパフォーマンスに優れたDKWムンガが選ばれたのです。

ポルシェは、597の開発に多大な費用を投じました。最終的な開発コストはおよそ1800万マルクにも上り、この莫大な費用が量産化の大きな障壁となりました。また、ポルシェは、軍が要求した納期までに必要な台数を供給することが困難であった点も、生産中止に繋がった要因です。

597のメカニズムと性能

597の心臓部は、ポルシェ356で実績のある空冷水平対向エンジンでした。このエンジンは、フォルクスワーゲン車にも採用されていたもので、信頼性が高く、整備性にも優れていました。初期モデルでは1.5L、後期モデルでは1.6Lの排気量を持ち、約50馬力を発揮しました。車重はわずか990kgと軽量であったため、最高速度は約100km/hに達しました。

トランスミッションは、2輪駆動と4輪駆動を切り替え可能な5速マニュアルトランスミッションを搭載。2060mmという短いホイールベースながら、最大65%の登坂能力を誇る優れた走破性を備えていました。

ボディとデザイン

597のボディは、ポルシェ自身のシュトゥットガルト車体製造部門で製作されました。初期型は、ドアのない高いシルを持つモノコックボディが特徴でした。この独特のボディは、水陸両用性を考慮した設計であると考えられています。後期型では、ドアが追加され、フロントフェンダーとボンネットの形状も変更されました。一部の後期型は、カルマン社によって生産されました。

試作車の数とその後

1955年から1958年にかけて、合計71台のポルシェ597が製造されました。そのうち49台は、民間市場に販売されました。軍への納入が実現しなかったものの、その高い性能と独特のデザインは、一部の愛好家に受け入れられました。

ポルシェは、1959年8月に597のプラットフォームを改良した新型車の開発計画を発表しましたが、この計画も実現には至りませんでした。もし、この改良型が量産化されていれば、597の歴史は大きく変わっていたことでしょう。

まとめ

ポルシェ597ヤークトヴァーゲンは、量産には至らなかったものの、ポルシェの技術力の高さと、軍用車両に対する革新的なアプローチを示した重要な試作車でした。その高い性能と独特のデザインは、今日もなお、多くの自動車ファンを魅了し続けています。コストや生産能力の問題で頓挫したものの、もし量産化されていたら、自動車史に名を刻む名車になった可能性もあったでしょう。

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