ポルシェ・RSスパイダー

RSスパイダー：ポルシェのプライベーター向けLMP2レーシングカー

はじめに

RSスパイダーは、ドイツの自動車メーカー、ポルシェが開発した2座席のプロトタイプレーシングカーです。開発コードナンバーは“9R6”。 ポルシェは1998年、ポルシェ・911 GT1でル・マン24時間レースを制覇しましたが、その後プロトタイプカーレースから撤退していました。しかし、2005年、プライベーター向けの洗練されたLMP2マシン開発を発表。アメリカン・ル・マン・シリーズ（ALMS）、ル・マン・シリーズ、そしてル・マン24時間レースといった世界最高峰のレースシーンにおいて、大きな成功を収めました。

開発の背景

プロトタイプカーレースのレギュレーションが、クローズドコックピットのGTからオープンコックピットのLMP（ル・マン・プロトタイプ）へと移行する中、ポルシェは独自の道を歩みました。2005年のALMS参戦表明は、911シリーズで培われた技術を活かし、より洗練されたマシンをプライベーターに提供するというポルシェの強い意志を示すものでした。RSスパイダーは、ポルシェが設計・製造した、まさに「ポルシェの魂」が込められたマシンだったのです。

輝かしい戦績

RSスパイダーの活躍は目覚ましく、数々のタイトルと勝利を獲得しました。2005年のALMS最終戦では、ペンスキー・レーシングが総合4位/クラス優勝を果たし、そのポテンシャルの高さを証明しました。2006年には、ペンスキー・レーシングの2台体制でALMSに参戦し、7回のクラス優勝でLMP2クラスタイトルを獲得。2007年には、ペンスキー・レーシングとダイソン・レーシングの計4台が参戦。LMP1クラスのアウディR10を相手に、第3戦から第10戦まで8連勝という驚異的な成績を収め、LMP2クラスタイトルを獲得しました。この年、エンジン、トランスミッション、空力特性、信頼性などを向上させた第二世代へと進化を遂げています。

2008年には、ALMSに加え、ル・マン24時間レースやル・マン・シリーズにも参戦範囲を拡大。様々なプライベートチームに供給され、ル・マン24時間レースでは、ヴァン・メルクシュタイン・モータースポーツ（VMM）がLMP2クラス優勝を果たすなど、その実力は世界に認められました。2009年のル・マン24時間レースでは、チーム・エセックス（TE）がLMP2クラス優勝。日本チーム、NAVI TEAM GOHも参戦しましたが、完走は叶いませんでした。2010年はALMSがLMPクラスに統合され、マッスルミルク・チーム・サイトスポーツが2位を獲得しました。

マシンの概要

RSスパイダーは、LMP2レギュレーションに完全に準拠した設計となっています。エンジンは、排気量3,397ccのNA（自然吸気）90度V型8気筒DOHC4バルブ。ダイレクトインジェクションシステム（DFI）を採用し、約500馬力の高出力を実現。モノコックとギアボックスケーシングには、カーボンファイバーを使用。プライベーターへの負担軽減のため、高価な素材の使用は意図的に抑えられました。

技術的な特徴

エンジンは、吸入空気量を制限するリストリクターが装着されており、その径によって出力が変化します。ポルシェは、503馬力と公称出力値を示しています。シャーシは、軽量かつ高剛性なカーボンファイバー製モノコックを採用。エンジンはモノコックにダイレクトマウントされ、高い剛性と効率的な重量配分を実現しました。

終焉と遺産

2011年から導入された新たなLMP2レギュレーションにより、RSスパイダーのコストが予算制限を超過することになり、その歴史に幕を閉じました。しかし、RSスパイダーがALMSやル・マンで残した輝かしい戦績と、プライベーターを支援するというポルシェの姿勢は、モータースポーツ史に大きな足跡を残しました。RSスパイダーは、多くのチームやドライバーに勝利をもたらし、ポルシェの技術力の高さと、モータースポーツへの情熱を象徴する一台として記憶されています。

参考文献

「Racing On 2008年2月号 特集：ポルシェ　モータースポーツ」 イデア 2008年

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