ポール・グリフィス (作家)

ポール・アンソニー・グリフィス

ポール・アンソニー・グリフィス（Paul Anthony Griffiths、1947年11月24日生）は、イギリスを代表する文筆家の一人です。彼は音楽学者、音楽評論家、オペラ台本作家、そして小説家として、多岐にわたる分野で活躍しています。そのキャリアは、生化学を専攻していた大学時代に、アルバイトで始めた音楽評論が高い評価を得たことを機に大きく方向転換しました。1971年からは、本格的に音楽評論家としての道を歩み始め、特に現代音楽の専門家として国際的に知られるようになります。

音楽評論と音楽学における貢献

グリフィスの活動の中心は、現代音楽に関する評論と音楽学研究です。彼はこの分野で数多くの重要な著作を発表しており、その深い洞察と明快な筆致は高く評価されています。主要な音楽史概論としては、『現代音楽小史―ドビュッシーからブーレーズまで（Modern Music: A Concise History from Debussy to Boulez）』、『現代音楽 1945年以降の前衛（Modern Music: The avant garde since 1945）』、そして『文化のなかの西洋音楽史（A Concise History of Western Music）』などがあります。

これらの音楽史概論は、時代に合わせて改訂や増補が重ねられています。例えば、『現代音楽小史』は1990年代初頭までをカバーする改訂版が、また『現代音楽 1945年以降の前衛』は内容が大幅に書き換えられた第3版が出版されています。ただし、これらの新しい版には日本語訳が存在しない場合があるため、読者は注意が必要です。

グリフィスの著作は、音楽史だけでなく、特定の作曲家に関する詳細な研究（モノグラフ）も多数含んでいます。特に、オリヴィエ・メシアン、ジェルジ・リゲティ、ピエール・ブーレーズ、ジョン・ケージといった20世紀後半の主要な作曲家に関するモノグラフは、この分野を学ぶ者にとって必読の文献とされています。彼はこれらの作曲家たちの作品や思想を深く掘り下げ、その本質を明らかにしました。

また、グリフィスは、早くからフランスの作曲家ジャン・バラケの特異な才能に注目し、その創作活動の全貌を論じた著作『The Sea on Fire: Jean Barraqué (Eastman Studies in Music)』を著しました。さらに、バラケに師事したイギリスの作曲家ビル・ホプキンスの作品についても、グリフィスの筆を通じて広く紹介が行われました。

オペラ台本と小説

1990年代には、グリフィスはオペラ台本作家としても活動の場を広げました。中国の作曲家タン・ドゥンのオペラ『マルコ・ポーロ（Marco Polo）』や、アメリカの作曲家エリオット・カーターのオペラ『What Next?』など、国際的に評価の高い作曲家からの依頼を受け、台本を執筆しています。彼の台本は、その文学性と演劇性において高い評価を得ましたが、オペラ台本作家としての作品数はこれまでに3件と、限定的な活動に留まっています。初演および出版された台本作品には、『The Jewel Box』、『Marco Polo』、『What Next?』などがあります。

近年では、グリフィスは小説家としても精力的に活動しています。音楽の世界で培った深い洞察や豊かな想像力を生かした独自の小説作品を発表しており、そのジャンルは多岐にわたります。これまでに、『Myself and Marco Polo』、『The Lay of Sir Tristram』、『let me tell you』、『The Tilted Cup』（後にフランス語版『Pavillon lunaire』も刊行）、そして2020年には『Mr. Beethoven』といった作品を刊行しています。

ポール・アンソニー・グリフィスは、音楽評論家として現代音楽の理解促進に貢献し、音楽学者として多くの重要な著作を世に送り出す一方で、オペラ台本や小説といった異なる形式でも才能を発揮しています。その幅広い活動は、彼が音楽という領域を深く探求しつつも、常に新しい表現の可能性を追求し続ける、多才な文筆家であることを示しています。特に示しています。

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