ポール・ハースト

ポール・ハーストの生涯と学問的業績

ポール・クエンティン・ハースト（Paul Quentin Hirst, 1947年5月20日 - 2003年6月17日）は、イギリスの社会学者であり、社会理論と民主主義論を専門としていました。レスター大学とサセックス大学で学び、1985年からはロンドン大学バークベック・カレッジで社会理論の教授を務めました。

ハーストの研究は、マルクス主義社会学から始まり、ハロルド・ラスキなどの多元的国家論へと展開し、最終的には結社民主主義論（アソシエイティブ・デモクラシー）という独自の理論を提唱しました。彼の研究は、現代社会における政治、経済、そして民主主義のあり方を深く考察するものであり、その思想は今日の社会科学研究にも大きな影響を与えています。

マルクス主義から多元主義へ

ハーストは、初期の研究ではマルクス主義の視点から社会構造や歴史的変化を分析していました。しかし、次第にその枠組みを超え、多元主義的な視点を取り入れるようになります。この転換は、国家が単一の権力主体ではなく、様々な社会集団や組織が相互作用する場であるという認識に基づいています。

結社民主主義論（アソシエイティブ・デモクラシー）

晩年のハーストは、結社民主主義論の提唱者として知られています。これは、国家によるトップダウンの政治ではなく、市民が自発的に形成する結社（アソシエーション）を通じて社会問題を解決し、民主主義を実現しようとする考え方です。彼は、労働組合、地域団体、消費者グループなど、多様な結社が社会の意思決定に参加することで、より公正で効果的なガバナンスが可能になると主張しました。

主要な著書

ハーストは、数多くの著作を通じてその思想を展開しました。以下に主要な著書を挙げます。

単著
Durkheim, Bernard and Epistemology (1975)
Social Evolution and Sociological Categories (1976)
On Law and Ideology (1979)
Marxism and Historical Writing (1985)
Law, Socialism, and Democracy (1986)
After Thatcher (1989)
Representative Democracy and its Limits (1990)
Associative Democracy: New Forms of Economic and Social Governance (1994)
From Statism to Pluralism: Democracy, Civil Society and Global Politics (1997)
War and Power in the 21st Century: the State, Military Conflict and the International System (2001)
Space and Power: Politics, War and Architecture (2005)

共著
Pre-capitalist Modes of Production, with Barry Hindess (1975)
Mode of Production and Social Formation: An Auto-critique of Precapitalist Modes of Production, with Barry Hindess (1977)
Social Relations and Human Attributes, with Penny Woolley (1982)
Globalization in Question: the International Economy and the Possibilities of Governance, with Grahame Thompson (1996, 2nd ed., 1999)

編著
The Pluralist Theory of the State: Selected Writings of G. D. H. Cole, J. N. Figgis, and H. J. Laski (1989)

共編著
Reversing Industrial Decline?: Industrial Structure and Policy in Britain and her Competitors, co-edited with Jonathan Zeitlin (1989)
Debating the Constitution: New Perspectives on Constitutional Reform, co-edited with Anthony Barnett and Caroline Ellis (1993)
Reinventing Democracy, co-edited with Sunil Khilnani (1996)
Associative Democracy: the Real Third Way, co-edited with Veit Bader (2001)

これらの著作は、彼の多岐にわたる研究領域と、社会理論、政治理論への貢献を示しています。特に、『結社民主主義：経済と社会統治の新しい形態』は、彼の結社民主主義論の核心をなす著作として重要です。また、『グローバリゼーションの疑問：国際経済とガバナンスの可能性』は、グローバル化の進展が国家と民主主義に与える影響を深く考察したものです。

結論

ポール・ハーストは、マルクス主義から出発し、多元主義、そして結社民主主義へとその思想を発展させた社会学者です。彼の理論は、現代社会における政治と民主主義のあり方を考える上で、重要な視点を提供し続けています。彼の著作は、社会科学の研究者だけでなく、政治や社会に関心を持つすべての人々にとって、貴重な知見を与えてくれるでしょう。

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