マスタースレーブ

マスタースレーブ方式：制御と協調の仕組み

複数の機器が連携して動作するシステムにおいて、機器間の役割分担を明確にする方式として「マスタースレーブ方式」があります。これは、全体を統括し制御する「マスター」と、マスターの指示に従って動作する「スレーブ」という役割を分担させる方法です。マスターはスレーブの動作を監視、制御し、スレーブはマスターからの指示に基づいて動作します。

コンピュータシステムにおけるマスタースレーブ

コンピュータの世界では、マスタースレーブ方式は、通信プロトコルやハードウェア構成において広く利用されています。例えば、CPUがマスターとして周辺機器を制御する、データベースレプリケーションにおいてマスターデータベースがスレーブデータベースにデータを同期させるといった例があります。

マスタースレーブ関係は、常にマスターからスレーブへの一方通行の制御で行われます。ただし、状況によっては、複数の同等のデバイスの中から１つをマスターに選出し、残りをスレーブとする動的な構成も存在します。

ハードディスクドライブのように、マスターとスレーブの区別が単なるデバイス番号の識別である場合もあります。この場合、マスターがスレーブを直接制御するわけではなく、番号付けによる区別のみとなります。

Macintoshシリーズでは、Target Disk Mode（ターゲットディスクモード）という機能が存在し、Macintoshを外部ストレージとして利用する際に、Macintoshがスレーブとして機能します。この機能はFireWireやSCSIなど、以前のインターフェースにも存在していました。

ロボット工学におけるマスタースレーブ

ロボットやマニピュレーターの遠隔操作においても、マスタースレーブ方式は重要な役割を果たします。熟練オペレーターによる繊細な操作を、遠隔地にあるロボットアームに再現するために用いられます。

オペレーターが持つマスターアームの動きを、スレーブアームが精密に追従します。この際、動作の拡大縮小も可能で、医療分野におけるマイクロサージャリーなど、人間の手に不可能な精密な作業を可能にする技術として発展しています。

その他の分野での応用例

マスタースレーブ方式は、コンピュータシステム以外にも様々な分野で使用されています。

ディーゼル機関車の連結運転では、先頭機関車がマスターとなり、後続の機関車をスレーブとして制御します。特に、重量貨物や急勾配路線では複数の機関車を連結して牽引力を増すことがあり、この際、後続機関車は運転席のない補助機関車（Bユニット）として使用される場合があります。

複数台のレコーダーを用いた同時録音においても、マスターレコーダーの制御に従ってスレーブレコーダーが動作するマスタースレーブ方式が用いられます。

用語の是非をめぐる議論

「マスター」と「スレーブ」という用語は、歴史的に奴隷制度を連想させるため、近年ではその使用に批判的な意見が多く寄せられています。

このため、代替用語として「プライマリー／レプリカ」、「ペアレント／ワーカー」、「コントローラー／デバイス」など、より中立的な表現が提案され、多くのIT企業やOSSコミュニティで採用が進んでいます。

Pythonプログラミング言語でも、2018年にはマスタースレーブという用語を廃止し、より適切な用語に置き換えています。これは、技術用語として正確であっても、社会的な文脈を考慮し、不快感を与える可能性のある表現を避けるべきだという考えに基づいています。

技術用語の選定は、技術的な正確さと社会的な配慮の両方を考慮する必要があることを示す事例と言えるでしょう。

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