マスト

マストについて

マストとは、帆船において帆を張る役割を担う垂直の柱です。日本語では「マスト」または「帆柱」とも呼ばれ、また「檣」と表記されることもあります。軍艦においては、発展した形態である信号檣と区別するためにこの名称が使われています。

マストの構成と種類

帆船のサイズに応じてマストの本数や構造は異なります。大きな船ほど多くのマストを持つのが一般的で、例えば、19世紀の中頃までは単一の針葉樹から作られたマストが主流でしたが、船のサイズが増すにつれて複数の木材を組み合わせたり、空洞の鉄製マストが登場したりしました。

代表的な3本マストを持つ帆船のマストは、以下の3つに分類されます。

• - フォアマスト: 最前列のマストで、メインマストの前に位置します。
• - メインマスト: 最も高いマストで、通常は船体の中央に位置します。
• - ミズンマスト: 最後尾のマストで、一般的にフォアマストよりも低いです。

さらに、マストが4本以上の帆船においては、ボナヴェンチャーミズンやジガーマストなど特定の名称が与えられます。5本以上のマストを持つ船は少なく、数を数えられることが一般的です。たとえば、2本マストの帆船はメインマストおよびミズンマストを持ち、他にも多種多様な配置があります。

それぞれの主要マストは、さらに小さなマストに分けられ、最下部のマストには「ローワー」といった接頭辞が付きます。たとえば、メインマストの最下部は「メインマストローワー」と呼ばれます。その他の小マストには、トップマストやトガンマスト、ロイヤルマストがあり、高さによって呼称が変わります。

マストの歴史

複数のマストを持つ帆船の概念は、船の速度や操作性向上のために地中海北部で発展しました。フォアマストは古代エトルリアの船に見られ、ローマ海軍でも用いられましたが、初期のマストは船体に対して顕著に前傾していました。古代後期からは、垂直に立つマストが一般的となり、運載船の設計が進化しました。

中世に入り、地中海航海において帆装形式が変化し、古代の縦帆が再度導入されるとともに、3本マストが広まります。14世紀にはヴェネツィアやバルセロナで3本マストの船が広く使用されるようになりました。これにより、大規模な外洋航海が可能となり、先進的な技術が発展しました。

現代のマスト

19世紀に入ると、蒸気機関やディーゼル機関の普及に伴い、帆船は減少しましたが、娯楽用途のヨットなどでは現在でも使用が続けられています。1930年代にはアルミニウム合金製のマストが登場し、それ以降ほとんどの小型帆船やヨットで主流となりました。アルミの軽さと耐久性により、より高いマストの建造が可能となりました。

1990年代には炭素繊維強化プラスチック製のマストが登場し、レース用ヨットではその軽さと形状の優位性が注目されています。

帆走以外のマスト

蒸気機関の発展により、帆走機能を持たない船も増えつつありますが、信号旗やアンテナ、航海灯を設置するため、マストは依然として必要です。さらに、短いマストを設置した軍艦の艦橋もその代用として使われています。商業用においてもマストは重要な構成要素であり、高い位置に設置することで視認性が向上し、様々な機能を持たせることが可能となっています。

また、飛行艇の一部にはマストが取り付けられることもあります。これにより、着水後に帆を張って航行することができる仕組みが作られています。

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