マタギ (漫画)

『マタギ』：自然と人間の壮絶なドラマ

矢口高雄氏による漫画作品『マタギ』は、1975年から1976年にかけて『漫画アクション』誌上で連載されました。全3巻からなるコミックスは双葉社より刊行され、2017年には山と渓谷社より文庫版も発行されています。1976年には日本漫画家協会賞大賞を受賞するなど、高い評価を受けている作品です。

本作は、秋田の山奥で暮らすマタギたちの生活、狩猟、そして自然との関わりをリアルに描いた作品です。単なる狩猟漫画にとどまらず、人間と自然の共存、人間の業、生命の尊さといった普遍的なテーマが深く描かれています。

物語は複数のエピソードで構成されており、それぞれのエピソードで異なるマタギたちの物語が展開します。

「野いちご落し」では、人里に下りてきた熊を狩る様子が描かれ、マタギの技術や伝統、そして山の神への信仰が描かれています。熊の狩猟は単なる食料確保ではなく、自然との共存、そして山の秩序を維持するための重要な儀式であることがわかります。また、狩猟の失敗によって引き起こされる悲劇も描かれ、自然の厳しさを改めて感じさせます。

「怜悧の果て」では、賢すぎる狐との攻防が描かれています。マタギの弥作は、狐を執拗に追いかけ回すものの、うまく捕らえることができません。罠を仕掛けたり、毒を盛ったりしますが、狐の知恵には敵いません。最終的には、孫娘の民子が狐と仲良くなっていることから、弥作自身の心の変化が描かれ、自然との共存の難しさが描かれています。

「オコゼの祈り」では、マタギ犬との絆が描かれています。猟犬の姫は熊に襲われ重傷を負いますが、マタギの百造は懸命に看病し、姫は回復します。しかし、百造は自身の過失によって右手を失い、それでもマタギとして生き続けます。このエピソードでは、マタギ同士の絆、そして自然への畏敬の念が描かれています。

「勢子の源五郎」では、マタギの源五郎が山の神に祈りを捧げ、その結果として優れた狩猟能力を得るものの、傲慢さが災いし、悲劇的な最期を迎える様子が描かれています。このエピソードでは、自然の力、そして人間の傲慢さについて考えさせられます。

「アマッポ」では、マタギの掟と人間の心の葛藤が描かれています。禁止されている罠である「アマッポ」を仕掛けたマタギの罪と、それを取り巻く人間模様が描かれ、マタギ社会の厳格なルールと、それに対する人間の感情が描かれています。

「行者返し」では、廃れた小玉流マタギの物語が描かれます。彼らは自然保護の観点から鳥獣保護に努めていましたが、その掟に縛られ、人の情を失っていたため、山の神によってコダマネズミに変えられてしまいます。このエピソードでは、マタギの在り方、自然との関係について深く考えさせられます。

「寒立ち」では、カモシカとオオカミの狩りの様子が描かれ、自然界の弱肉強食が描かれています。また、マタギである三四郎の心の変化が描かれています。

「樹氷」では、ニホンオオカミの群れと、それらを追跡する三四郎の姿が描かれます。オオカミと巨大な未確認生物との遭遇、そして三四郎の決意が描かれています。

「最後の鷹匠」では、高度成長期における鷹狩りの衰退と、鷹匠の悲劇的な最期が描かれています。このエピソードでは、時代の変化と自然との調和の難しさについて問いかけています。

これらのエピソードを通じて、『マタギ』は、自然の厳しさ、人間の業、そして生命の尊さといった、多くのテーマを多角的に描いています。40年以上の時を経てなお、多くの読者に感動を与え続ける名作と言えるでしょう。2017年の文庫版復刻は、この作品が現代においてもなお、普遍的なテーマを提示し続けていることを示しています。現代社会においても、自然との共存、人間のあり方について考えさせられる作品です。

もう一度検索