マチルダ・クシェシンスカヤ

マチルダ・クシェシンスカヤの生涯

マチルダ・クシェシンスカヤ（1872年8月31日 - 1971年6月7日）は、ロシア帝国のバレリーナであり、プリマ・バレリーナ・アッソルータとして名を馳せた人物です。ポーランドの家系に生まれ育った彼女は、サンクトペテルブルク近郊のリゴヴォで生活していました。舞踏家の家庭で育ったため、自然とバレエの道に進むこととなり、マリインスキー・バレエ団に参加しました。

彼女は、1892年から1894年までの間、後にロシア皇帝となるニコライ2世の愛人として知られる一方、ピエリーナ・レニャーニとともに、その美しい舞踏と技術で注目を浴びました。ニコライとの関係は、彼の父、皇帝アレクサンドル3世と皇后マリア・フョードロヴナの意向によって始まりましたが、1894年にアレクサンドル3世が崩御し、ニコライがアレクサンドラ・フョードロヴナと結婚したことにより、関係は終焉を迎えました。

その後、ニコライ2世の即位と共に、彼女の名は醜聞や噂に巻き込まれ、ロマノフ家の大公たちとの三角関係が知られるようになります。セルゲイ・ミハイロヴィチ大公やアンドレイ・ウラジーミロヴィチ大公などと交際を持ち、マチルダは自らの社交界を通じてサンクトペテルブルクで多くの資産を築きました。特に、1917年にレーニンが自身の革命演説を行ったのは、彼女の豪華な邸宅のバルコニーからだったと言われています。

ロシア革命後、彼女は南フランスへ逃亡し、1921年には亡命していたアンドレイ大公と結婚しました。二人の間には1902年に息子のウラジーミルが誕生しましたが、父親が実際にはロシア革命によって処刑されたセルゲイ大公だとも言われ、複雑な家庭環境を持っていました。

1929年からは自身のバレエ学校を設立し、多くの未来のスターたち、マーゴ・フォンテインやアリシア・マルコワ、アンドレ・エグレフスキー、タマーラ・トゥマーノワを指導しました。64歳で行われたコヴェント・ガーデンでの慈善イベントが彼女の最後の舞台であり、情熱の集大成として記憶されています。

1960年には、自伝『Souvenirs de la Kschessinska』を出版し、自らの目を通した舞踏と人生観を綴っています。この自伝は、英語と日本語にも翻訳され、多くの読者に影響を与えています。また、マチルダの人生を題材にした映画『マチルダ 禁断の恋』が2017年に制作され、再び彼女の名声を際立たせました。

彼女はマリインスキー劇場のバレエ監督マリウス・プティパに評価され、多くの作品に起用されるなど、舞踏家としての実力と影響力を持っていました。マチルダ・クシェシンスカヤの生涯は、ロシアのバレエ界だけでなく、広く文化史における重要な一ページとして今日に伝えられています。

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