マツカレハ

マツカレハ

マツカレハ（学名: Dendrolimus spectabilis）は、チョウ目に属するカレハガ科の一種です。その幼虫は一般的に「マツケムシ」とも呼ばれ、マツなどの針葉樹に深刻な被害をもたらすことで知られています。

分布と生態

この昆虫は、日本全国に広く生息するほか、シベリア、樺太、朝鮮半島といった東アジア地域にも分布しています。成虫は年に一度発生し、通常は6月から10月にかけて見られますが、特に活動が活発になるのは7月から8月頃です。

成虫の体は茶褐色を呈し、翅には白い斑紋が見られることが多いですが、模様には個体差が大きく、全く斑紋がないものも存在します。産卵は、その年に伸びた新しい針葉に行われ、一塊に100個から300個もの卵をまとめて産み付けます。

卵はおよそ1週間で孵化し、孵化したばかりの幼虫は集団で行動します。この時期の幼虫は、マツの針葉の片側だけを食べる特徴的な食害を行い、食べられた葉はギザギザの鋸歯状になります。この食害を受けた針葉は赤く変色し、被害のサインとなります。

幼虫は一度脱皮すると分散し、その後はマツの根元に近い部分まで含め、広範囲にわたって食害を始めます。

マツカレハが寄生する植物は主にマツ属の樹木で、アカマツ、クロマツ、チョウセンマツなどが含まれます。また、カラマツも寄生対象となります。

秋が深まる10月頃になると、幼虫は針葉から樹幹を伝って根際や樹皮の割れ目などに移動し、若い段階の幼虫の姿で冬を越します。翌年の3月から4月頃に再び活動を開始し、暖かくなると針葉上に戻って食害を再開します。十分に成長した幼虫は、針葉の上や枝、幹などで蛹になります。

老熟した幼虫は体長が約60ミリメートルに達します。頭部は暗褐色、胴体は銀色から黄褐色で、全体に黒い長い毛が生えています。特に注意が必要なのは、背中の一部に生えている黒藍色、あるいは藍黒色の毒針毛（毒毛）で、これに触れると激しい痛みを伴う皮膚炎（毛虫皮膚炎）を引き起こし、腫れ上がります。

被害

マツカレハは樹木、特にマツ類にとって深刻な害虫です。時には特定の地域で大量発生し、その食害によって広範囲の森林が枯れてしまう大規模な被害が発生することがあります。

過去には、1919年以降の樺太でマツカレハの食害が顕著になり、4年間で8800万石もの木材が被害を受けたと記録されています。また、1924年には樺太の大泊湾周辺で大発生し、わずか一夜にして数百町歩の森林が食い荒らされたという記録も残っており、その破壊力の大きさを物語っています。

また、前述のように、幼虫の持つ毒毛に触れることによる人体への被害も重要です。毛虫皮膚炎は強い痛みと腫れを伴い、アレルギー反応が強い場合は症状が長引くこともあります。

防除

マツカレハの防除にはいくつかの方法があります。

物理的な方法としては、新しい枝に産み付けられた卵の塊を早期に発見し、潰して除去することが有効です。これにより、多数の幼虫の発生を未然に防ぐことができます。

薬剤による防除も行われます。スミパイン乳剤やDDVP乳剤といった殺虫剤が使用されますが、これらの薬剤は孵化直後の若い幼虫に対して特に効果が高く、大きく成長した老熟幼虫には効果が劣るとされています。

日本では古くから、マツの幹の地上から胸の高さくらいの場所に藁でできた「こも」を巻く伝統的な方法が行われてきました。これは、寒くなった時期に越冬のために幹に移動する害虫をこもに集め、春先にこもごと処分することで害虫を駆除しようという考えに基づいています。しかし、マツカレハを含む特定の害虫に対する防除効果は限定的であることが指摘されています。むしろ、カブリダニなどの益虫がこもを越冬場所として利用することが多いため、こもを処分する際には益虫まで殺してしまうことにならないよう、十分な配慮が必要とされています。

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