マテウス・メーリアン

マテウス・メーリアン：17世紀ドイツの版画の巨匠

マテウス・メーリアン（1593年-1650年）は、スイス出身の版画家にして、製図家、そして出版者として17世紀ドイツの芸術文化に多大な貢献を果たした人物です。彼の名は、精緻で写実的な都市風景画や世界地図、そして多様な主題を扱った版画によって、現代においても広く知られています。

輝かしいキャリア：技術の研鑽と出版業

バーゼルに生まれたメーリアンは、若い頃から銅版画の技術に秀でていました。チューリッヒで研鑽を積んだ後、フランス各地で経験を積み、技術を磨きました。1615年にバーゼルに戻った後、翌年にはフランクフルトの著名な出版社、テーオドル・ド・ブリの元に身を寄せます。そこでド・ブリの娘と結婚し、後に自身も版画家となる息子マテウス・メーリアン2世をもうけました。

1623年、義父ド・ブリの死後、メーリアンはフランクフルトでド・ブリの出版社を引き継ぎました。1626年には自身の出版社を設立し、独立して精力的に作品制作と出版事業を行いました。彼の作品は、単なる版画の域を超え、当時の社会や文化を反映する貴重な資料となっています。

独創的な都市図と地理学への貢献

メーリアンの代表作として知られるのが、精緻な都市図のシリーズ『Topographia』です。この作品は、地理学者マーティン・ツァイヤーとの共同制作、そして後に息子との協働を経て、21巻にも及ぶ大規模なシリーズとして完成しました。ジャン・クーザンの『遠近法の書』に示された遠近法を巧みに取り入れた彼の都市図は、独自の視点と精密さで高い評価を得ています。

『Topographia』には、ドイツ各地の都市の鳥瞰図や風景画が多数収録されているだけでなく、世界地図や各国の地図も含まれています。これらの地図は、当時の地理学的知識を反映しており、歴史的にも重要な資料として位置づけられています。さらに、ド・ブリが開始した『Grand Voyages』と『Petits Voyages』を引き継ぎ、完成に導いたことでも知られています。

多様な主題：聖書から日常風景まで

メーリアンの作品は、都市図や地図制作にとどまりません。聖書の故事を題材にした版画集『Iconum Biblicarum』、戦争や狩りの場面を描いた作品、本の表紙や肖像画、そして『死の舞踏』など、多様な主題を扱った作品を制作しました。その幅広い表現力は、彼が多才な芸術家であったことを示しています。彼の作品は、単なる芸術作品としてだけでなく、当時の社会や文化を理解するための貴重な資料としても役立っています。

影響と遺産

メーリアンの作品は、後世の芸術家にも多大な影響を与えました。例えば、スウェーデンのエリック・ダールベルヒ伯爵が編纂した銅版画集『Suecia Antiqua et Hodierna』は、メーリアンの作風から強い影響を受けていると言われています。また、ドイツの旅行雑誌『メーリアン』の名称は、彼の名に由来しています。彼の作品は、現在でも世界各地の美術館や図書館に所蔵され、研究者や愛好家によって高く評価されています。メーリアンは、単なる版画家という枠を超え、17世紀のドイツにおける芸術文化の発展に大きく貢献した重要な人物と言えるでしょう。

もう一度検索