マフィリンド

マフィリンド：幻に終わった地域連合構想

マフィリンド（Maphilindo）は、20世紀半ばに東南アジア地域で提唱された、マラヤ連邦、フィリピン、インドネシアの3か国による連合体構想です。一時は実現に向けて動き出したものの、政治的な対立や不信感から短期間で瓦解し、幻の構想として歴史に名を残しました。

構想の原点：結合したマレー人

マフィリンドの原案は、ヴェンセスラオ・ビンゾンズによって、アメリカ統治下のフィリピンで生まれました。「結合したマレー人種（Malaya Irredenta）」という理想を掲げ、民族的な繋がりを重視する思想が根底にありました。

合意への道のり：大マレーシア連邦構想と地域協力

第二次世界大戦後、フィリピンとマラヤ連邦がそれぞれ独立を果たしました。しかし、ボルネオ島のサバを巡る領有権問題が両国間に存在し、対立の火種となっていました。こうした状況を打開するため、当時のフィリピン大統領ディオスダド・マカパガルは、「大マラヤ連邦」構想を発表し、フィリピンとマラヤ連邦の国家統合による問題解決を提案しました。

一方、マラヤ連邦では、旧宗主国であるイギリスの主導のもと、シンガポールやブルネイなどを併合したマレーシア連邦の発足が計画されていました。しかし、この計画に対しては、併合対象地域からの反対運動が起こり、インドネシアも、マレーシア連邦案を新たな植民地主義だと批判し、マラヤ連邦との対立を深めていきました。

マカパガル大統領は、こうした状況を受け、インドネシアをも巻き込んだ「大マレーシア連邦」構想を新たに提唱し、インドネシアのスカルノ大統領の協力を得て、マラヤ連邦に提示しました。この構想は、植民地支配によって分断されたマレー民族を統合するという、ホセ・リサールの夢を実現するものとして位置づけられました。

当初、マラヤ連邦の首相トゥンク・ラーマンは、マレーシア連邦案からの譲歩を拒否していましたが、1963年5月、スカルノとの会談で、3か国による地域協力に合意し、マフィリンド実現への第一歩を踏み出しました。

翌6月には、マニラで外相会談が開かれ、マフィリンド設立を宣言するマニラ協定が採択されました。協定では、経済、社会、文化協力が明記され、7月には3か国首脳会談で、マニラ宣言とマニラ協定の合意が発表されました。マニラ宣言では、民族自決の観点から、サバとサラワクにおけるマレーシア連邦参加の是非を問う住民投票を国連に要請することが合意されました。

瓦解：住民投票と対立

1963年9月、国連調査団によってサバとサラワクでマレーシア連邦案に対する住民投票が実施されました。しかし、この調査にはフィリピンとインドネシアのオブザーバー参加が認められず、不透明なものでした。さらに、ラーマン首相率いるマラヤ政府は、調査結果の発表前に、サバとサラワクを含むマレーシア連邦の成立を宣言しました。これは、マニラ宣言の合意に反するものでした。

マレーシア成立のわずか2日後、マレーシア政府はフィリピン、インドネシア両国との国交断絶を発表しました。これにより、マフィリンド構想は崩壊し、短命に終わりました。

マフィリンドは、地域協力と民族自決を目指した壮大な構想でしたが、政治的な駆け引きや不信感によって、その夢は叶いませんでした。しかし、この構想は、東南アジアの地域統合の歴史において、重要な教訓を残しています。

もう一度検索