マリア・トリップの肖像

レンブラント・ファン・レイン作「マリア・トリップの肖像」：17世紀オランダの富と美の表現

レンブラント・ファン・レインが1639年頃に制作した油彩画「マリア・トリップの肖像」は、アムステルダム国立美術館の所蔵品として知られています。この作品は、17世紀オランダ黄金時代の華やかさと、巨匠の卓越した技法を見事に融合させた傑作として高く評価されています。

モデルと作品の情報

モデルとされているマリア・トリップは、鉄と武器の交易で巨万の富を築いた裕福な商人の娘でした。肖像画が描かれた1639年当時、彼女は20歳で未婚だったと推測されています。絵画の中では、彼女の裕福さがはっきりと見て取れます。彼女は、透き通るような上質なレースのネッカチーフを身につけ、多くの真珠のアクセサリーで美しく飾られています。当時珍しく高価なアクセサリーであった扇を左手に持ち、その優雅な姿は見る者の目を惹きつけます。

レンブラントは、マリアの豪華な衣装を巧みに用いて、光と影の劇的な効果を生み出しています。光のあたる部分と影の部分のコントラストが、マリアの表情や衣装の質感、そして周囲の雰囲気に深みを与え、作品全体に生命感と奥行きを与えています。

作品の詳細と歴史

1915年、研究者ホフステーデ・デ・フロートはこの絵画を以下のように記録しています。若い女性が石の欄干のそばに立っており、35歳ほどと推定されます。彼女は半身像で等身大、左側に身体を傾け鑑賞者の方を見つめています。左手に持った扇は欄干の上に置かれ、茶色の髪は巻き毛で眉毛の上に垂れ下がっています。黒い絹のガウンは喉元まで仕立てられ、バラの花型の飾りが縁取られています。その上に豪華なレースの三重のカラーが重ねられ、耳、胸部、首、手首には多くの真珠の装飾が施されています。小さな宝石のついたメダルが黒いリボンから垂れ下がり、右側は身体の右側に垂れ下がっています。背景には暗色のカーテンがあり、左側にカリアティド（女像柱）のある奥まった空間が描かれています。正面からの日光が女性を照らしています。

絵画の左端には修正の跡が見られ、そこには以前テーブルがあったと考えられています。また、左の袖には大きなボタンがあったと推測されています。絵画には「Rembrandt f. 1639」の署名があり、杉板に油彩で描かれています。サイズは縦42インチ、横32インチで、1896年からアムステルダム国立美術館に寄託展示されています。

20世紀には、イサ・ファン・エーヘンによる研究で、このモデルがバルタサール・コイマンスの妻マリア・トリップである可能性が高いことが明らかになりました。しかし、アムステルダム国立美術館とオランダ美術史研究所では、モデルを特定することには慎重な姿勢を保っており、「ある女性、おそらくマリア・トリップの肖像」と題しています。

レンブラントの技法と作品の意義

「マリア・トリップの肖像」は、レンブラントの肖像画における卓越した技法を見事に示した作品です。彼は、モデルの個性を繊細に捉え、心理的な深みまで表現することに成功しています。光と影の巧みな使い方は、人物の表情や心情を豊かに描き出し、見る者に強い印象を与えます。

この作品は、17世紀オランダの富裕層の生活様式や、当時の社会状況を垣間見ることができる貴重な資料でもあります。また、レンブラントという巨匠の芸術性と、彼が作品に込めたメッセージを深く考えさせる、魅力的な肖像画です。アムステルダム国立美術館を訪れた際には、ぜひこの名画を鑑賞してみてください。

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