マリオン・ジマー・ブラッドリー

マリオン・ジマー・ブラッドリー（Marion Zimmer Bradley, 1930年6月3日生 - 1999年9月25日没）は、アメリカ合衆国の小説家、主にSFおよびファンタジーの分野で評価されました。また、編集者としても活動しました。

作家として彼女が特に知られているのは、歴史上の伝説や神話を題材としながらも、男性中心的な視点や西欧キリスト教的世界観から距離を置き、特に女性の視点から物語を再構築する作風にあります。これにより、従来の歴史観とは異なる角度からの洞察を提供する作品を生み出しました。

代表作としては、遠い惑星ダーコーヴァを舞台に、そこに不時着した人類と土着文化の興亡を描く壮大なSFシリーズ『ダーコーヴァ年代記』や、アーサー王伝説を『妖精のモーゲン』という女性の視点から見つめ直したフェミニズムファンタジーの傑作『アヴァロンの霧』が挙げられます。『アヴァロンの霧』は、その優れた完成度からローカス賞ファンタジーノベル部門を受賞しています。これらの作品群は、女性を中心とした古代の土着信仰と、後に主流となる新しい信仰との間の対立といった、ブラッドリー独自のモチーフを色濃く反映しています。また、トロイア戦争を王女カッサンドラーの視点で描いた『ファイアーブランド』シリーズなども知られています。編集者としては、『Marion Zimmer Bradley's Fantasy Magazine』の編集などを手がけ、SF・ファンタジー界への貢献も行いました。

日本においては、彼女の作品の多くが創元推理文庫やハヤカワ文庫から翻訳出版されました。特に『ダーコーヴァ年代記』の翻訳は、後に日本の英米SF翻訳を牽引する若手翻訳者たちのデビューを飾る機会ともなりました。しかし、2019年時点では、その大半が絶版となっている状況です。

作家としての功績が評価される一方で、彼女の死後、その名声は大きく揺らぐこととなりました。2014年、娘たちが英紙ガーディアンを通して、過去に親から性的虐待を受けていたことを告発したのです。ブラッドリーの夫であったウォルター・H・ブリーンは、SFファンダム出身で、長年にわたり児童に対する性的虐待を繰り返しており、ブラッドリーは早くからその事実を知りながらも、夫を擁護し、1964年に結婚していました。ブリーンは1990年に児童性的虐待の罪で実刑判決を受け、1993年に獄中で死亡しています。

娘の証言によれば、父からの虐待に加え、ブラッドリー自身からも冷酷で暴力的な虐待を受けていたとされます。娘は、母の性的志向が異常であり、自分以外にも被害者がいた可能性を示唆しました。しかし、娘は「自分の人生よりも、母のフェミニスト作家としての名声や、ファンの心の平穏を傷つけたくなかった」という思いから、長年沈黙を守っていたと述べています。この告発はSF作家コミュニティに衝撃を与え、ブラッドリーに対する多くの非難が巻き起こり、その名声は著しく傷つきました。これを受け、一部の出版社は、今後の彼女の作品の電子版売上などから得られる収益の一部を、関連する支援団体へ寄付するとの声明を発表しています。

マリオン・ジマー・ブラッドリーは、その革新的な作家性と編集者としての活動を通じてSF・ファンタジー界に大きな足跡を残しましたが、同時に、その人生の暗い側面が後に明らかとなり、複雑な評価を受ける人物となっています。

もう一度検索