マリタ・リンダール

マリタ・リンダールは、1938年10月17日、フィンランドの首都ヘルシンキに生を受けました。モデルとして活動する傍ら、その類まれな美貌は早くから国内で注目を集めます。1957年1月、彼女は国内最大のミスコンテストであるミス・スオミで見事に優勝を飾り、フィンランド代表としての地位を確立しました。

同年、彼女はヨーロッパ各国の代表が集まるミス・ヨーロッパに出場し、準優勝という素晴らしい成績を収めます。さらに、特別賞であるミス・フォトジェニックにも選ばれ、写真映えする魅力も高く評価されました。当時の評価として、「真剣すぎる」という点が唯一の小さな欠点であり、もう少し笑顔があれば優勝も可能だったとする見方が多かったと伝えられています。

そして迎えた1957年10月14日、ロンドンで開催されたミス・ワールド世界大会において、マリタ・リンダールは栄光の優勝トロフィーを手にしました。この快挙は、2021年現在に至るまで、フィンランド代表として唯一のものです。大会を主催したエリック・モーリー氏は、彼女の美しさについて、「忘れがたい美貌と蠱惑は、往年の大女優グレタ・ガルボに比肩し得る」と絶賛しました。優勝者にはスポーツカーが贈られましたが、残念ながら税務当局の介入により、マリタはそれを手放さざるを得ませんでした。

ミス・ワールド優勝後、マリタには映画界からも熱い視線が注がれました。イタリアの巨匠フェデリコ・フェリーニや、ルキノ・ヴィスコンティといった著名な映画監督から、出演のオファーが舞い込みます。特にヴィスコンティは、自身の代表作となる『ベニスに死す』のアッシェンバッハ夫人役を直接依頼するため、わざわざフィンランドまで足を運んだといいます。しかし、マリタ自身は女優としての才能はないと感じており、これらの魅力的なオファーをいずれも断る決断をしました。

1970年、マリタは番組司会者として活躍していたマルッティ・キルシティエ氏と結婚します。二人の間には一人の子が生まれ、マルッティとは彼女が脳卒中のために亡くなる2017年3月21日まで、およそ47年間の結婚生活を共に歩みました。

私生活では、ヘルシンキで最も人気のあるレストランの一つを経営していた時期もありました。その後、1980年頃からは英国での生活を重視するようになります。当初はロンドンのケンジントン地区に居を構えましたが、やがて歴史と文化が息づくオックスフォードを終の棲家と定め、穏やかな晩年を過ごしました。

フィンランド唯一のミス・ワールドとして世界にその名を轟かせたマリタ・リンダールは、多くの人が羨む華やかな道を歩みながらも、自身の価値観に従い、家族との時間を大切にする人生を選びました。彼女の生涯は、単なる美の女王にとどまらない、強い意志を持った一人の女性の生き様として記憶されています。

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