マリン・カルミッツ

Marin Karmitz：独立映画の旗手、MK2の創設者

Marin Karmitzは、1938年、ルーマニアのブカレストでユダヤ人の家庭に生まれました。9歳の時に家族と共にパリに移住し、フランスで映画制作の道を歩むことになります。彼はIDHEC（フランス国立高等映画学校）で学び、アニエス・ヴァルダやジャン＝リュック・ゴダールといった巨匠たちと仕事をした経験を持つ、フランスを代表する映画プロデューサー、配給者、監督です。

彼のキャリアは、撮影助手として始まりましたが、自身で映画を制作したいという強い思いから、独立系映画製作会社MK2を設立します。当初は、彼の監督作品を含む短編映画制作に注力していましたが、やがて作品をより多くの人に届けるため、映画館の興行も開始。1974年にはパリ・バスティーユに最初の映画館をオープンしました。

MK2は、商業映画とは一線を画す、いわゆる「作家」と呼ばれる芸術性の高い独立系映画に特化。アラン・レネ、クロード・シャブロル、フランソワ・トリュフォー、ルイ・マルといった、フランス映画史に名を刻む巨匠たちの作品を数多く世に送り出しました。さらに、ミヒャエル・ハネケやチャールズ・チャップリンといった海外の著名監督の作品も配給し、国際的なネットワークを築き上げました。

カルミッツは、映画制作において商業主義に染まることを嫌い、芸術家の創作活動を尊重する姿勢を貫きました。彼は自身の信念を次のように述べています。「創造なき企業、クリエイターなき企業は、記憶もなくアイデンティティもなく、社会とも一体化していない企業である。」この言葉は、彼がいかに独立系映画に強いこだわりを持っていたかを示しています。また、彼は、芸術家が常に援助を必要とする存在であるべきではないという考えから、フランスの映画助成金制度にも批判的な姿勢を示していました。

MK2は、カルミッツのリーダーシップの下、着実に成長を続け、パリ市内を中心に複数の映画館を展開するまでに至りました。彼は晩年まで映画制作に携わり、自社作品をDVDとしてリリースするための編集作業にも関わっていました。そのカタログには、彼が敬愛する巨匠たちの作品に加え、彼自身の監督作品も含まれており、まさに彼の映画人生の集大成といえるでしょう。

2004年には、メル・ギブソンの『パッション』の配給を拒否したことも話題を呼びました。これは、彼の芸術に対する信念、そして商業的な成功よりも作品の内容を重視する姿勢を端的に示す出来事でした。

2005年、彼はMK2社を息子のナタナエル・カルミッツに譲り、経営から退きました。しかし、彼の功績は、フランス映画界、そして世界中の独立系映画シーンに、今もなお大きな影響を与え続けています。彼の情熱と信念は、多くの映画制作者や映画ファンにインスピレーションを与え続け、独立映画の隆盛に大きく貢献したと言えるでしょう。

カルミッツの功績は、単に映画を制作・配給したという枠を超え、芸術性と商業性を両立させようとした、稀有な映画人の生き様そのものと言えるでしょう。彼の哲学は、現代の映画業界においても、多くの示唆を与え続けています。

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